コラム

苦しくとも、日本を守ってきた「前提」がついに崩れる...過去最大「貿易赤字」の意味

2022年08月02日(火)19時47分

しかも頼みの綱である所得収支も、将来性という点では危ういと言わざるを得ない。日本の所得収支の大半は、東南アジアなどに移転した製造業の現地法人から得られる利子や配当であり、これは形を変えた輸出といってよい。近い将来、こうした海外の現地法人も、新興国のメーカーに取って代わられる可能性が高く、その場合、所得収支の減少が懸念される。

日本の経常黒字を維持するには、輸出を増やすと同時に、所得収支の中身について、製造業にひも付いた直接投資から純粋な証券投資にシフトする必要がある。

いずれにせよ産業構造の転換が求められるので、実現は容易ではなく、時間もかかる。仮に赤字転落しても混乱が生じないよう、国内金融市場の整備を進め、スムーズに海外資本を導入できる体制を構築しておく必要があるだろう。経常収支と成長率は直接関係しないが、今の産業構造のまま赤字転落する影響は大きく、準備しておくに越したことはない。

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プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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