コラム

中小企業になりたがる大企業 「減資」はズルいのか?

2021年03月24日(水)11時56分

TkKurikawa/ISTOCK

<JTBや毎日新聞、外食チェーンなど、資本金を減らして中小企業化するケースが相次いでいるが、問題の本質はどこにあるのか>

コロナ危機による業績悪化をきっかけとして、大企業が「減資」を行い税制上の中小企業に転換するケースが増えている。外形標準課税など法人減税が主な狙いと考えられるが、節税目的の減資が増えれば、法人税の存在が有名無実化してしまう。企業が最も有利に立ち回ろうとするのは当然なので、実態に即した課税が必要だろう。

旅行大手のJTBは、現在23億400万円となっている資本金を減資して、1億円まで減らすと報道されている。外食チェーンのカッパ・クリエイトやチムニーも同様の減資を発表した。

一連の減資の最大の目的は税負担の軽減とみられている。地方税である法人事業税は外形標準課税の対象となっており、資本金によっては企業の損益だけでなく、資本金や従業員数などで税額が決まる。資本金を1億円以下にした場合、税制上は中小企業の扱いになるので、外形標準課税の対象にはならない。

過去にはシャープが試みたことも

また、中小企業であれば欠損の繰り越しも有利になるので、赤字を計上している場合には中小企業のほうがメリットが大きい。大企業は、過去10年以内に発生した欠損のうち半額までしか控除対象にならないが、中小企業であれば全額を控除できる。今後、収益を回復できる見込みが高ければ、中小企業になったほうが大幅に税金を節約できるはずだ。

ここで名前を挙げた企業は、旅行や外食などコロナ危機で大きな打撃を受けた業種に属している。過去にも業績が悪化したシャープが減資を試みたケースがあるほか、長く業績低迷が続いてきた毎日新聞社もすでに減資を実施している。過去の累積損失がある企業の場合、減資を実施すれば、財務諸表上、減らした資本金を充当することで累損を一掃できる。

減資による損失一掃はまっとうな資本政策の1つであり、減資という形で会社の信用力を落とす代わりに、帳簿上の損失を消す行為と考えればよい。その意味では、業績悪化に伴う減資そのものは批判されるような行為ではない。

だが、減資の主な目的が節税ということになると話は変わる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スパイ容疑で極右政党議員スタッフ逮捕 独検察 中国

ビジネス

3月過去最大の資金流入、中国本土から香港・マカオ 

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月速報値は51.4に急上昇 

ビジネス

景気判断「緩やかに回復」据え置き、自動車で記述追加
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story