コラム

タンス預金が100兆円を突破! 「現金好き」はどんどん損する時代に

2021年03月30日(火)20時10分

MIYUKI SATAKE/ISTOCK

<現金・預金をこよなく愛する日本人だが、コロナ禍で加速するその習性が今後は自らの首を絞めることに>

日本の家計が保有する金融資産が2000兆円に迫る水準となっている。とりわけ目立つのが現金保有で、いわゆるタンス預金の増加が顕著だ。特別定額給付金や外出自粛、将来不安などが原因だが、こうした国民の行動はアメリカとは逆のようだ。

日銀が2021年3月17日に発表した資金循環統計によると、2020年12月末時点における家計の金融資産は、1948兆円と過去最高額となった。政府が1人10万円の特別定額給付金を支給したことに加え、外出自粛などで支出が減ったことから現金・預金は1056兆円と前年同月比で4.8%も増えた。特に現金を自宅に保管する、いわゆるタンス預金の金額は100兆円を超えている。

コロナ危機は非常事態なので、まとまった金額の現金を手元に置いておくことには一定の合理性がある。だが、日本の場合、諸外国と比較して以前からタンス預金の比率が極めて高いという特徴があり、しかも流通している現金の中で1万円札が占める割合が圧倒的に高い。

店舗などで決済サービスが一時的に使えなくなるといった事態に対応するための現金保有ではなく、資産保全を目的に現金を保有している人が多いことが推察されるのだ。

インフレはすぐそこに?

つまり経済の先行きに対する漠然とした不安から現金を保有していることになるが、こうした経済行動は、量的緩和策が実施されている現状においては大きなリスクとなり得る。量的緩和策は十分な効果を発揮したとは言えないが、一方で市中銀行が日銀に預ける当座預金には約500兆円ものマネーが積み上がっており、一部でも市中に出回れば大きなインフレ圧力となる。

これまでは全世界的にデフレ傾向が顕著だったことから過度にインフレを心配する必要はなかったが、コロナ危機をきっかけに状況は一変した。全世界的なサプライチェーンの縮小で輸送コストが上昇するなか、コロナ後の景気回復を見据えて資材の争奪戦となっており、コモディティ価格が急騰している。

資材価格の高騰にカネ余りが加われば、当然、インフレのリスクが高くなる。10年物米国債の利回りも急上昇しており、世界の金融市場は完全にインフレ警戒モードに入った。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ総司令官、東部前線「状況悪化」 ロ軍攻勢

ビジネス

米GM、コロンビアとエクアドルで工場閉鎖 次世代車

ビジネス

ドル円が急上昇、一時160円台 34年ぶり高値更新

ワールド

米国務長官、29日からサウジ・イスラエルなど訪問 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story