コラム

日本経済が低迷する本当の理由は「中間搾取」と「下請け構造」

2019年04月16日(火)14時55分

中間搾取だけを目的とした企業が多数、温存されることに…(写真はイメージ) metamorworks-iStock

<日本の貧困率の高さは、すぐにでも改革が必要なレベルなのに手付かずなのは「一部の人」の猛反発のせい。安倍首相が構造改革について言及しなくなったのはなぜ?>

日本はバブル崩壊以降、多くの経済政策を実施してきたが、ほとんど成果を上げていない。アベノミクスについても、当初は高い期待が寄せられたが、あまりうまくいっているとは言えないだろう。

あらゆる政策を総動員しても効果を発揮しない最大の理由は、日本経済の仕組みそのものが制度疲労を起こしているからである。重層的な下請け構造や中間搾取をビジネスとする企業の存在などはその典型といってよい。

非正規労働者を増やすことが構造改革ではない

アベノミクスがスタートした当初、「3本の矢」というキーワードがあったことからも分かるように、政策は3つの柱で構成されていた。1本目は量的緩和策、2本目は財政政策、3本目は成長戦略である。金融政策でデフレからの脱却を試み、財政出動で当面の景気を維持し、その間に構造改革を実施するという流れだ。

ここで重要なのは、量的緩和策や財政政策はあくまで一時的な対応策として位置付けられていたという点である。少なくともアベノミクスのスタート時点においては、構造改革こそが経済成長を実現する本丸という認識だった。

構造改革というのは本来、冒頭に述べたような、無意味な補助金や下請け構造、中間搾取といった、ムダの温床となっている諸制度を改革することを意味している。だが日本において構造改革というのは、単に非正規社員を増やしたり、コスト・カットするという意味になっており、政治家にとっては使いたくないキーワードになっている。

安倍首相はもともと、政策で動くタイプの政治家ではなく、ホンネでは経済政策にはあまり興味を持っていないだろう。安倍氏がいつしか構造改革について言及することがなくなり、特定の層からの支持率が上がる情緒的な政策に舵を切ったのは必然といってよい。

日本では、キーワードが持つ意味をすり替え、すり替えられたキーワードを感情的に批判するという流れはいつものことであり、構造改革についても同じことがいえる。だが、経済の仕組みが硬直化した状態では、いくら財政出動や金融政策を実施しても効果を発揮しないのは当然である。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、大麻規制緩める大統領令に近く署名か 米

ワールド

ウクライナ、東部要衝都市を9割掌握と発表 ロシアは

ビジネス

ウォラーFRB理事「中銀独立性を絶対に守る」、大統

ワールド

米財務省、「サハリン2」の原油販売許可延長 来年6
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story