コラム

バンス米副大統領が信奉する新思想、「ポストリベラリズム」の正体

2025年07月11日(金)17時20分

そして今、政治家たちの関心は次の選挙に向いている。トランプの後釜を狙うバンス副大統領が特に声高だ。彼に近いノートルダム大学のパトリック・デニーン教授などは、「伝統的な家族の価値観」の擁護、政府による経済への積極的介入などの主張を「ポストリベラリズム」と名付け、新しい運動に仕立て上げようとしている。

権威主義国の主張とうり二つ

政治的な都合に合わせて思想を操作していくと、いくつかねじれが起きる。例えば、伝統的な「家族」の価値観の擁護、LGBTQの否定などは、ロシアや中国、イスラムの権威主義とされる諸国が、アメリカの介入に抵抗するために主張してきたこととうり二つなのだ。


アメリカは自由と民主主義を理想に西欧の白人が建国したが、当時から南部では権威主義的な価値観が強かった。西欧の白人も自由・民主主義でまとまっているわけではなく、強い指導者が強権で富を再配分してくれることを期待する者が困窮層を中心に増えている。

このままでは、アメリカの共和党政権・欧州の右派政権諸国・ロシア・中国という、一種の権威主義連合が、NATOに取って代わるかもしれない。

戦後の冷戦期、世界は東西に分裂し、自由・民主主義の有無が対立の軸になってきたが、今、対立軸は持てる者と持たざる者の間の争いに転移しつつある。筆者のように(あまり持っていないが、元官僚という保護された立場から)「上から目線」で自由を唱えてきた者たちは、もう時勢に合わない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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