コラム

安定の安倍政権が「最終章」で求められる必達事項は

2019年11月06日(水)11時00分

官邸を去るまで2年を切った安倍だが REUTERS/Soe Zeya Tun

<肝入りの政策は実現困難かもしれないがそれ以外にも課題は山積>

歴代最長の在任期間が見えてきた安倍政権も、任期はいよいよ残り2年を切った。ここにきて、レームダックとまでいかずとも、そこはかとない浮遊感が漂う。

側近らの処遇や積み残し人材の大臣登用が目立つ「打ち上げコンパ内閣」とでも言うべき政権だけに、それも当然だ。憲法改正は時間的にも難しく、北方領土問題も北朝鮮による拉致問題も行き詰まり。だからマスコミは菅原一秀前経産相をたたき小泉進次郎環境相の無能を書き立てて部数を稼ぐ。

もったいない。レガシーがない政権だと言われるが、そんなことはない。モリカケ問題はあったが、この7年弱、日本がジリ貧になるのを抑え、消費税増税にもかかわらず経済成長を回復させ、難しい対米関係を良好に維持してきた。誰にでもできることではない。

さらに天皇の生前退位を実現させ、中国と韓国には毅然とした姿勢を維持してきた。安保法制の採択などによる日米関係の強化、検討段階だが中東海域への自衛隊増派やアメリカ抜きのTPP(環太平洋経済連携協定)成立などの自主外交の推進、そして東京オリンピックの実現も業績だ。

しかし打ち上げムードにはまだ早い。やるべきことは山積みだ。まず、最初から安倍首相の脳裏にあったであろう戦後の総決算、つまりアメリカへの過度の依存を解消すること。安保面では、護衛艦いずもの空母化、最新鋭のF35戦闘機の導入、中距離射程の巡航ミサイルの購入決定など自衛力の強化は粛々と進んでいる。ただ、中国が日本を射程に入れた核ミサイルを多数保有し、北朝鮮やロシアもこれに加わろうとしている今、日本は抑止力としての核保有を検討せねばなるまい。

次に、日本の明日への方向を示して次世代につないでほしい。人工知能(AI)や量子コンピューター、脳波解読、遺伝子工学など文明が一変しようという今、これらの技術で世界の先端グループに居続ける気概を示し、体制を整えてほしい。異常気象が常態になるのに備えて、堤防のかさ上げや強風に耐え得る建築方法の普及、老朽インフラの改修などの「国土強靭化」事業で地方経済の再活性化を図る。「土建国家」を恥じることはない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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