コラム

スポーツよりも面白い? 大阪G20のここが見どころ

2019年06月27日(木)15時00分

世界の首脳がG20には集結する(昨年11月、ブエノスアイレス) Andres Martinez Casares-REUTERS

<世界の首脳が集まるサミットの真価は2国間会談、イラン訪問の不首尾から「外交の安倍」は復活する>

6月28日、大阪で20カ国・地域(G20)首脳会議が始まる。外国首脳、国際機関の長や官僚、記者など多数が押し寄せる。

13日にイラン沖のホルムズ海峡付近で日本のタンカーが襲撃されても、日本では翌日のトップニュースが「大谷のサイクル安打」。この荒れた世界で安定の能天気を見せたが、G20はその荒波を日本にもたらすだろう。

トランプ米大統領は自国が貿易でしゃぶり尽くされ、産業が空洞化したと、ちゃぶ台返しの真っ最中。これで中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は追い詰められている。習が5~7日にロシアを公式訪問して中ロの盟友ぶりを見せつけたが、世界は脅かされない。

なぜならロシアでは昨年2%を超えた経済成長率がこの第1四半期に再び0.5%に落ち、国民の実質可処分所得は6年続けて下落中。しかもプーチン大統領に次の任期はないので、国内はタガが外れ始めているからだ。6日に警察が当局の不正を暴いた記者を麻薬密売のでっち上げで逮捕したところ、メディアが一斉批判。11日に記者は解放され、警察幹部2人が解任の憂き目に遭ったのもその1つだ。

しかしトランプ政権も相変わらずばらばら。高官がロシア、イラン、北朝鮮に対決を望むのに対して、トランプは適当なところで取引して済ませようとする。対中関係でも、ペンス米副大統領が天安門事件30周年にちなんで中国の人権問題を非難するスピーチを準備したが、トランプはこれを止めている。トランプは20年の大統領選を前に中国との貿易問題を一応収拾し、米中対立による経済悪化を防ごうと考え始めたのかもしれない。

握手映像だけで効果十分

EU諸国の首脳の足場も液状化している。要であるドイツでは社会民主党(SPD)が連立政権から脱退すれば、政権崩壊による総選挙でメルケル首相が早期に退場する可能性が強い。経済も停滞し、国内随一のドイツ銀行は膨大な不良債権で破綻寸前だ。EUはブレグジット(イギリスのEU離脱)問題も含め、ガバナンスを失っている。

この中で、今回のG20が何か成果を生む可能性があるのは全体会議ではなく、2国間会談だろう。香港問題がこれ以上荒れず習来日となれば、米中首脳会談が開かれる。そこで何らかの合意が達成され、世界経済は当面、破綻せずに済むだろう。

米ロ首脳会談も行われそうだ。米国内でロシア疑惑捜査が一段落し、トランプも対ロ関係を進めやすくなっている。トランプは民主主義や自由などお題目にはこだわらず、ロシアと無用の対立を避けるだろう。

プーチンも対米関係改善に向けてロシア国民から圧力を受けている。所得が下がるなかで、兵士を外国に送ってアメリカに対抗を続ける政府に国民は飽きが来て反発を強めている。米ロ首脳会談では、核兵器削減についての交渉開始が正式に合意されるかもしれない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 8
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story