コラム

金の切れ目が縁の切れ目、中国「一帯一路」夢のあとさき

2019年05月03日(金)06時40分

一帯一路は失速気味?(17年5月、北京) JASON LEEーREUTERS

<100カ国以上を招き中世のモンゴル帝国さながらの中国主導経済圏構想は、厳しい投資環境と外貨不足でもはや息切れ>

中国の首都北京で4月25~27日、第2回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムが華々しく行われる。17年の前回は参加首脳数が29人だったが、今回は100カ国以上から首脳をはじめ数千人の代表団がはせ参じる。

まるで中世のモンゴル帝国さながらの光景だ。メディアは中国の脅威を書き立てることだろう。カネの魅力で各国首脳を呼び寄せるのは簡単だが、問題はその中身だ。

もう忘れられてしまったが、97年に橋本龍太郎首相が「シルクロード外交」を提唱。その後数年、ユーラシアでの日本の動向が注目された。日本はアジア開発銀行や世界銀行などと、中央アジア・コーカサス諸国への積極的な経済支援に着手。中央アジア5カ国だけで合計5000億円を超える円借款を供与し、工場や鉄道、道路整備を行った。

筆者は02年に駐ウズベキスタン大使になったが、当時日本は低利あるいは無償の公的資金供与、技術支援など、この国で最大のODA供与国として大きな存在感を持っていた。

04年に大使を退任して数年後、北京のある国際問題研究所を訪れたことがある。中央アジアの専門家と話をしようと思ったら、所長が自ら出てきて、「日本が中央アジアで大きな地歩を築いた秘訣」について根掘り葉掘り聞いてきた。

日本は「合気道外交」を

急成長を遂げたばかりの中国は当時、中央アジア方面に翼を伸ばそうとしていた。筆者は、日本はインフラ整備に融資するだけでなく、文化交流などで「心の手当て」にも意を用いていることを懇切丁寧に説明した。

中国が中央アジアに進出するのは、日本にとっていいことだと思っていたからだ。実は日本が中央アジアとの経済関係で期待するものはそう大きくない。中国が乗り出しても、日本が失うものは少ないどころか、旧「宗主国」のロシアが焦って、中央アジアとの協力を進めるだろう。そうなれば、中ロ両国が日本と提携を求めてくるのではないか──。

その後の中国の進出は、相手の心も全てカネで買うと言わんばかりに鼻息が荒かった。各省庁や官民の企業がユーラシアの津々浦々、バルト諸国やバルカン諸国にまで進出。中国政府の予算、融資、補助金を当て込んでは、あらゆるプロジェクトに唾を付けた。それを束ねて13年、習近平(シー・チンピン)国家主席は「一帯一路」という旗印を繰り出す。

実際は各地でプロジェクトが停滞しているようだ。中国とヨーロッパを結ぶユーラシア横断鉄道構想も、既存のロシア経由の路線が細々と機能しているだけ。両地域間の貨物はほとんどが海上輸送で、高コストの鉄道輸送は中国政府の補助金を要するだけに新たな建設は進んでいない。

結局、日本のシルクロード外交は中央アジア諸国がODAよりも直接投資の誘致に政策の重点を変えると勢いを失った。中央アジア諸国にしてみれば、直接投資は返済する必要がないので好都合だが、投資する側は大変だからだ。同じく、投資環境の厳しい中央アジアで操業しようとする中国企業も少ない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国首相、フォーラムで一段の経済開放約束 日本企業

ワールド

G7、エネ供給支援へ必要な措置講じる用意 外相声明

ワールド

トランプ氏、米空港にICE捜査官派遣と警告 予算巡

ワールド

トランプ氏、イランに48時間以内のホルムズ開放求め
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    「カメラの目の前」で起きた爆発の瞬間...取材中の記者に、イスラエル機がミサイル発射(レバノン)
  • 3
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 ──「成功」が招く自国防衛の弱体化
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    人気セレブの「問題ビデオ」拡散を受け、出演する米…
  • 6
    スウェーデン次期女王ヴィクトリア皇太子、陸軍訓練…
  • 7
    「筋力の正体」は筋肉ではない...ストロングマンが語…
  • 8
    トランプ政権の「大本営」、イラン戦争を批判的に報…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 4
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 9
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 10
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったの…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story