コラム

世界を支配するのは、米軍でも米ドルでもなく「米国法」

2019年03月16日(土)11時15分
世界を支配するのは、米軍でも米ドルでもなく「米国法」

米国法によりカナダで拘束された華為技術の孟晩舟CFO(左) Ben Nelms-REUTERS

<世界を畏怖させるトランプの剛腕とワシントンの慣性――国際法でもないアメリカ法がなぜ世界を締め上げるのか>

今の世界は、「トランプのアメリカ」にいいようにかき回されている。

中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄し、TPP(環太平洋経済連携協定)や地球温暖化に関するパリ協定から離脱。シリアとアフガニスタンからの米軍撤退を表明し、自由や民主主義という価値観などどこ吹く風。ドイツなど同盟国に対しても「余計な荷物」と言わんばかり。内向きになったアメリカによって、世界が弱肉強食の混乱の中に放り込まれたかのようだ。

だが実際は、アメリカが力で世界中をきりきりと締め上げているのではあるまいか。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は「トランプ米大統領をたらしこんで、核の問題はそこそこに制裁解除だけせしめてやろう」というもくろみが外れた。米中間でも、貿易問題に片は付いても、米国防総省を中心に、中国への先端技術・機器の輸出を制限しようとする動きは止まるまい。

トランプはロシアとの関係を改善したいそぶりを見せてきたが、米議会では対ロ制裁を強化する法案が超党派で上程されている。これが通ればロシアへの液化天然ガス(LNG)関連技術・融資供与や、ロシア国債の取引も禁じられるだろう。またトランプがいくらシリアなどから米軍を撤退させると言っても、国防総省はそれをうやむやにして、居残りを図っている。

「たそがれ」「終焉」の嘘

こうしてトランプの「剛腕」と、ワシントンの政策形成層(議会、官僚、利益団体、メディア、シンクタンク等が形成する集合体)が練り上げてきた米戦略の長年の「慣性」が、軍事とドルの力を背景に、アメリカの力を世界中にじわじわと浸透させていく。内向きどころか、「アメリカを世界で再び尊敬(畏怖)される国にする」という、トランプの選挙公約は実現されつつあるのでないだろうか。

法律面で見れば、アメリカはもはや「世界政府」になってきた感さえある。その力の源泉が「米国法の域外適用」であり、国際ビジネスを行う世界中の企業で警戒されている。例えば日本企業A社がアメリカ以外の国で、地元役人への贈賄など米国法に反することをしたとしよう。するとアメリカは米国法に基づき、A社が米国内でビジネスができないようにしたり、A社の米支社に法外な罰金を科す、あるいは幹部を拘束したりする。

同じく、外国企業B社がアメリカの対ロ制裁や対中技術輸出禁止措置に反したことをすると、米銀行にB社との取引を禁じて、B社がドルを用いた国際貿易決済ができないようにし、干上がらせる。こうすれば、外国企業であってもいや応なしに、米国法を守るしかない。

アメリカという世界最大の市場を利用させるかどうか。ドルという最も便利な貿易決済手段を使わせるかどうか――アメリカはこの2点を武器として、自国の法を世界に及ぼす。まるで、「世界政府」のノリだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』など  <筆者の過去記事一覧はこちら

MAGAZINE

特集:香港の出口

2019-8・27号(8/20発売)

拡大する香港デモは第2の天安門事件に? 中国「軍事介入」の可能性とリスク

人気ランキング

  • 1

    ヒマラヤ山脈の湖で見つかった何百体もの人骨、謎さらに深まる

  • 2

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいついで感染

  • 3

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 4

    「TWICEサナに手を出すな!」 日本人排斥が押し寄せる…

  • 5

    「この国は嘘つきの天国」韓国ベストセラー本の刺激…

  • 6

    韓国、外貨準備に対する対外債務が高水準に 金融収支…

  • 7

    韓国で広がる東京五輪不参加を求める声、それを牽制…

  • 8

    韓国、日本との軍事情報協定破棄へ 米国防総省「強い…

  • 9

    アメリカの衛星が捉えた金正恩「深刻な事態」の証拠…

  • 10

    寄生虫に乗っ取られた「ゾンビ・カタツムリ」がSNSで…

  • 1

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいついで感染

  • 2

    ヒマラヤ山脈の湖で見つかった何百体もの人骨、謎さらに深まる

  • 3

    「TWICEサナに手を出すな!」 日本人排斥が押し寄せる韓国でベテラン俳優が問題提起

  • 4

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 5

    韓国・8月15日、文在寅大統領の退陣要求集会には、安…

  • 6

    日本の重要性を見失った韓国

  • 7

    「この国は嘘つきの天国」韓国ベストセラー本の刺激…

  • 8

    韓国、外貨準備に対する対外債務が高水準に 金融収支…

  • 9

    寄生虫に乗っ取られた「ゾンビ・カタツムリ」がSNSで…

  • 10

    世界が発想に驚いた日本の「ロボット尻尾」、使い道…

  • 1

    寄生虫に乗っ取られた「ゾンビ・カタツムリ」がSNSで話題に

  • 2

    日本の重要性を見失った韓国

  • 3

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいついで感染

  • 4

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 5

    ヒマラヤ山脈の湖で見つかった何百体もの人骨、謎さ…

  • 6

    異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開

  • 7

    「TWICEサナに手を出すな!」 日本人排斥が押し寄せる…

  • 8

    韓国で日本ボイコットに反旗? 日本文化めぐり分断…

  • 9

    「韓国の反論は誤解だらけ」

  • 10

    韓国・8月15日、文在寅大統領の退陣要求集会には、安…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!