コラム

戦後アメリカが日本に強いた精神的自殺──日米同盟破棄で魂は復活するのか

2018年08月25日(土)14時30分

東京湾内の戦艦ミズーリ甲板上で日本の降伏文書に署名するマッカーサー連合国軍最高司令官(1945年9月2日) US Navy/REUTERS

<日米安保の第一人者も危惧する不信の高まり――対米依存脱却後のヒントは戦前にあり>

8月10日付の日本経済新聞に、日米同盟を支えてきた米側の第一人者とも言えるリチャード・アーミテージ元国務副長官が談話を寄せていた。この頃日本の空気が変わってきており、日本政府の関係者はアメリカが頼りにならないと思い始めている、との趣旨だ。

実に的を射た発言だ。実際、戦後の同盟体制を覆すかのようなトランプ米大統領の言動を見て、親米派に属する日本人識者からも、自主防衛力の強化や核武装の是非の議論の開始を呼び掛ける声が聞こえ始めた。日本と同じ第二次大戦の敗戦国で米同盟国のドイツでも核武装論、あるいは11年に停止した徴兵制復活を求める声が上がっている。

既存の枠組みや価値観が流動化する今こそ、日米同盟から美辞麗句を剝ぎ取り、日本にとって、日本人一人一人にとって「ナンボのものか」を見極めておくべきだろう。

日米の同盟関係は日本敗戦後の占領体制を強く引きずっている。その本質は、アメリカにとって、西太平洋とインド洋地域で軍事活動するための基地を日本に確保すること。さらにできれば日本を「米国の戦争」に引っ張り出すことだ。

日本にとっては米軍が在日基地に居座るのを認める代償として、日本の抑止力になってもらうことと、対米輸出を認めてもらうこと。「同盟」と銘打つわりに、日本はアメリカを防衛する義務を負っていない。基地を提供するから政治・経済両面で日本の面倒を見ろというわけだ。

一見、日本はうまいことやったようだが、安全保障から経済まで多くの面で対米依存していることは、戦後70年以上も日本人の魂をむしばんできた。日本もアメリカを守ることで対等性を確保しなければならなかったが、自衛隊の海外派遣には憲法の制約や世論の反対があった。

抵抗を押し切って海外派兵したところで、アメリカとの対等性を確保できるものでもなかった。それは、アメリカの戦争にほぼ加わってきたイギリスが、米政府から必ずしも対等に扱われていない現実を見れば、よく分かる。

日本は米国市場で儲けることはできた。だが繊維、半導体、自動車といった貿易交渉で、アメリカは恫喝を繰り返しては、日本を逆さづり同然に儲けを吐き出させた。このどうしようもない対米依存は人間としての尊厳を奪う。自決した作家・三島由紀夫が突いたように、日本人に精神的自殺を迫るようなものだ。

その点、同盟関係に投げやりなトランプの出現は、日本にとって独立性を取り戻す千載一遇のチャンスかもしれない。問題は、日米同盟をやめると、ぽっかりと暗闇の真空が広がっているかのように思えることだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

高市首相、中国首相と会話の機会なし G20サミット

ワールド

米の和平案、ウィットコフ氏とクシュナー氏がロ特使と

ワールド

米長官らスイス到着、ウクライナ和平案協議へ 欧州も

ワールド

台湾巡る日本の発言は衝撃的、一線を越えた=中国外相
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 7
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 8
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story