コラム

BTSの「活動休止」は韓国若年層の悲鳴

2022年07月06日(水)10時20分

しかし、この状況はこの動きを警戒する若年層の女性が進歩派陣営側に集まる現象をもたらすこととなり、若年層の票はジェンダーにより大きく分裂した。

選挙後には、敗れた進歩派側の「共に民主党」が強いフェミニズム的主張を持つ社会運動家の朴志玹(パク・ジヒョン)を、党首格である共同非常対策委員長に26歳の若さで起用。アンチフェミニズムとフェミニズムは、一時は与野党に若きリーダーを生み出すことになった。

しかし状況は再び変化しつつある。大統領選において若年層を二分した李の言動は、その功罪をめぐり議論の的となり、さらには性的接待を受けたとの疑惑で党内の懲戒審査にかけられている。一方の朴は、50代以上の退陣を求めた「86世代勇退論」が党内に分裂をもたらしたとして、統一地方選挙(6月1日)での大敗の責任を負う形で退陣した。

少子高齢化が進むこの国では、人口数の少ない若年層は決定的なハンディを有している。ようやく聞こえるようになった若年層の叫びは、このまま数により押しつぶされてしまうのか。

「デビュー以来、すごく面白いと思いながら仕事をしたことが一度もない」。BTSメンバーの1人であるSUGAの言葉は、その意味において彼ら自身の苦悩を示すものであると同時に、韓国の若年層共通の痛みを体現している。

韓国のポップカルチャーは、今後も社会的苦悩を訴えていくことになりそうだ。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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