コラム

住宅足りなすぎ高すぎで買えない問題と、それでも田園地帯をつぶしたくないイギリス人

2025年06月19日(木)16時02分

古い規則や規制を踏みつけにすれば、住宅価格に何らかの影響が出ることは間違いない。でも人々は、田園地帯を保護することで恩恵を受けているし、それが後の世代にも受け継がれていくべきだと考えがちだ。

全てを台無しにする決定をする当の本人になるなんて、そんな権利を僕たちが持っているとでも? もっとみんなが納得できる方法があるのでは? あるいは10年ごとに人口を200万人以上純増させ続けてきた大規模な移民流入を止めることはできなかったのだろうか?


正直に言うと、これは僕にとっては個人的な問題だ。僕が住んでいる都市(南東部エセックス州コルチェスター)は昔から、住宅地拡大の「ターゲット」となっている地域。通勤の便を考えて多くの人がここに住みたがるくらい、ロンドンに十分近い。それでいて手厚く保護された「グリーンベルト」地帯よりさらに奥で、ロンドンから十分遠い。

僕の住むコルチェスター周辺には開けた田園地帯がたくさんあり、それこそ僕がここに住みたいと思う一番の理由だ。散歩に出かけると、家から15分もしないうちに野原や公園、樹木が茂った地域に足を踏み入れられる。

僕のお気に入りの散歩は、ミドルウィック射撃場を横切ること。軍隊がここで射撃を含む訓練を行っていたから、文字通りの「射撃場」だ。そのエリアの散策が禁止されていないのは奇妙なことだが、問題なく歩ける。

放置された兵器に手を触れないよう警告する標識があったりして、いくつかルールは存在する。爆発の可能性もあるからだ、当然だけど。この土地は国防省の所有で、つまり既に政府の所有だから、そこに建物を建てようと思えばいくぶん簡単にできるだろう。

地元議会は住民の声に耳を傾けるが

地元で「ザ・ウィック」として知られている土地は酸性土壌の草原で、そのため絶滅危惧種の昆虫やコウモリなど多様な種を支える希少な生息地になっている。ナイチンゲールのさえずりを聞くのには特に良い場所だ。

個人的には、夏の日に散策するのが好きだ。15kmも歩き回ることもあるが、それは草原の端まで到達するのに近いところでも結構な時間がかかるためで、それからさらに遠い端までブラブラ歩き、そしてまた別のルートで戻ってくる。

どういうわけか、あまり疲れを感じない。自然の中を歩くと、消耗するのと同じくらいのエネルギーが養われるようだ。

「ザ・ウィックを守れ」という強力な地元キャンペーンがあり、地元議会も耳を傾けているような気配も見られる。でも中央政府は、住宅危機を解決したいと主張し、自分たちは大局的な見方をしていると信じ込み、「ニンビー(not in my backyard=自分の家の周辺だけはお断り)」に妨害されてもその責務に立ち向かうと誓っているだけに、ザ・ウィックは今なお脅威にさらされている。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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