コラム

プーチンをつけあがらせた「ロンドングラード」の罪

2022年03月18日(金)15時35分
ロマン・アブラモビッチ

オーナーを務めるチェルシーFCの試合を観戦するアブラモビッチ(2017年5月) Hannah McKay Livepic-REUTERS

<何十年もの間イギリスは、ロシアの飛び地さながらにプーチン取り巻きの怪しいロシア大富豪を受け入れ、豪遊させ、不動産を買い占めさせてきた。ウクライナの悲劇を前に、イギリスはじめ問題を放任し続けた各国は猛省すべきだ>

ウクライナの悲劇によって、世界中の国々はこれまでの政策と前提を考え直さざるを得なくなっている。イギリスは、ロシアのプーチン政権を成立可能にしてきた自らの役割を真剣に反省するべきだ。

何十年もの間、ロンドンは出所の怪しいロシアマネーの逃避先だった。僕たちイギリス人は、説明不能なほどに裕福なロシア人富豪がイギリスで不動産を買うのを許し、彼らの子息をイギリスの名門私立校で学ばせ、彼らが重要施設を買い占めるのさえ放任してきた。石油王のロマン・アブラモビッチがイングランド・プレミアリーグのチェルシーを買収したのが最たる例だ。

僕たちは彼らが資金洗浄するのを助けただけでなく、彼らの評判を洗浄するのにも手を貸した。元KGBでオリガルヒ(新興財閥)のアレクサンドル・レベジェフは、ロンドンの夕刊紙イブニング・スタンダードのオーナーになった(僕たちの掲げる「報道の自由」の1つだ)。共同オーナーを務める彼の41歳の息子エフゲニーは1年半前に英政府によって貴族に列せられ、今では英上院(貴族院)議員になっている。どう見てもうさんくさいのに、国民が口出しすることもできなかった。

怪しげなエリートを増長させてきた罪

でも僕たちは、「知らなかった」と主張することはできない。プーチン政権に近いオリガルヒや個人がイギリスでカネを蓄えていることは、これまでに何度も何度も警告されていたのだから。ロンドンの最富裕層地域では、どの家がどのいかがわしいロシア人富豪の所有する物件か、と紹介するガイドツアーまであった。この現象を指す言葉まである。「ロンドングラード」だ。

アブラモビッチのチェルシー買収にゴーサインが出てから20年近くにもなった今頃になって、彼がプーチンの取り巻きであると結論づけるなんて、なんとも滑稽だ。「全然知らなくて驚いたよ!」というわけだ。僕たちはやっと現実に気付き反応し始めたが、たまに形だけの批判や軽い取り締まりをするだけで、彼らをさんざん好きにさせてきてから既にもう何十年もたっている。

いま誰より苦しんでいるのはウクライナの人々だが、僕は長年、「ロシアの」人々にすまないという気持ちを抱いていた。彼らロシアの怪しげなエリートが母国から富を持ち逃げするのに手を貸してきたからだ。イギリスは彼らがグローバルエリートの一員として自らの富を最大限に満喫し、欲しいものを買いあさることのできる場所を提供することで、彼らの振る舞いを「増長させて」きた。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ政権が東部メーン州で不法移民摘発開始、知事

ビジネス

マクロスコープ:自民公約の食品減税、財源論先送り 

ワールド

米加州知事「ダボスの講演阻止された」、トランプ政権

ビジネス

米国株式市場=急反発、ダウ588ドル高 グリーンラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の核開発にらみ軍事戦略を強化
  • 4
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 5
    飛行機よりラク? ソウル〜釜山「110分」へ――韓国が…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    「怖すぎる...」モルディブで凶暴な魚の群れに「襲撃…
  • 9
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 10
    宇宙人の存在「開示」がもたらす金融黙示録──英中銀…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story