コラム

「ジャガイモ飢饉」のアイルランドから、人口過密のイングランドへ

2018年10月10日(水)19時00分

小作人がまずは地代を払えない状態になり、それから飢え死にし始めた時も、それを気遣う者はほとんどいなかった。彼ら地主の中には、小区画を広大な農地にまとめたほうが収益を上げられるから、貧しい小作人たちを追い払うべくこの絶好のチャンスを利用する者までいた。

地代が払えず追い払われた人々は道端で死んだ。彼らは食べものを請い、救いを求めて祈った。当時の政府の対応は完全にお粗末で、この出来事はイギリスの歴史の中でも大きな汚点となっている。

僕の祖先もアイルランドの大飢饉で最悪の被害を受けた極貧地域の1つであるメイヨー州から移住してきた。僕の父親にアイルランドのどの地方の出身かとたずねれば、お決まりのこの言葉が返ってくる。「メイヨーだ。神よ救いたまえ」

僕の遠い祖先たちが、どのように大飢饉を生き延び、多くの同胞が国を離れたり栄養失調で餓死や病死したりするなか、どうやってアイルランドにとどまっていられたのか、僕には想像もできない。

だが、アイルランドの人口激減はこの1回限りではなかった。人口は飢饉後も1世紀以上にわたって減り続けた。そこには、1922年にイギリスからの独立を遂げた後の40年間も含まれる。人口減少の断トツの理由は、外国への移住だ(僕の家族も1930~40年代にイングランドに移住してきた)。

メイヨー州の場合はアイルランドでも極端かもしれないが、同州の人口は1841年の38万9000人から1851年には27万4000人に落ち込んだ(10年間で30%減だ)。しかも減少は止まらず、1971年には70%減の11万人となった。現在では13万人となり、めざましく回復したけれど、ジャガイモ飢饉前のピーク時の3分の1にも届いていない。

またもや日本だったら、で比較してみると、富山県の人口は現在100万人を超えるが、メイヨーと同じ道をたどった場合、たった12万人になる、という具合だ。

だから僕の家族は、大多数の住民が国外移住したイギリス諸島の一地域からやって来て、今の僕は移民によって人口が激増しているイギリス諸島の一地域に住んでいる。人口統計的に見れば、僕の物語は典型的だ。

 

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

香港、種類株発行企業の上場規制緩和を提案 IPOに

ビジネス

中国の2月新規融資、予想以上に前月から急減 需要低

ワールド

アングル:拡大する地政学リスク助言産業、イラン戦争

ビジネス

ホンダ、慶大・大阪大とAI技術開発で連携 講座と研
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 2
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車整備は収入増、公認会計士・税理士は収入減
  • 3
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 4
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 5
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 6
    「イラン送りにすべき...」トランプ孫娘、警護隊引き…
  • 7
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 8
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 9
    2万歩でも疲れない? ディズニー・ユニバで足が痛く…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 10
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story