コラム

マイナス金利は実体経済の弱さを隠す厚化粧

2016年02月09日(火)13時00分

先月末の会見で「マイナス金利」政策について説明する日銀の黒田総裁 Yuya Shino-REUTERS

 マイナス金利政策の発表を受けて、私の周りの経済や金融にそこそこ明るい方でも実のところイメージがわかない、それ以外の方々は何のことやらさっぱりわからない、というお声が多く――確かに、直後からの解説やコメントをみても苦慮している様子がうかがえました(ただし、市場関係者で今回の政策変更が難解というのは仮にも専門職としていかがなものでしょう?)。メディア等に登場する金融の専門家も、銀行業界か證券業界かで随分と反応も違っていたようです。評価がバラバラになってしまった点も一般国民を訳のわからない状態にしている原因の1つでしょう。

 今回のマイナス金利についてさっぱり分からないという方のために。例えば、肌荒れしている時に、どんなに高級なファンデーションをこれでもかと塗りたくっても駄目ですよね。やはり、睡眠をしっかり取り、ビタミンなど栄養を補給する(これもサプリメントよりは自然なものが断然ベター)などして、体質改善を促しお肌の新陳代謝を身体の中から図る。それで初めてお肌がイキイキと活性化するものです。

 高級なリキッド・ファンデーションをこれでもかと使ってきたのが量的緩和(市場の流動性を指すliquidityとliquidは同じ語源です)。塗ればいいというものではないのですが、百歩譲って短時間なら取り繕うことも可能としましょう。しかし、本質的な肌の美しさとは違います。

 そして、ボトボト垂れるぐらい、あるいは塗り過ぎて分厚くなり、しわが寄ってそれが干からびてひび割れするほど、ファンデを塗られたのが異次元の量的緩和。そして、これからも塗り捲るけど、ファンデを垂らしたら、その分は罰金ねというのが今回のマイナス金利。

 これだけ与えてるんだから、全部肌に刷り込んでキレイにしろと言われても無理があります。ファンデはもういいから、身体の中からの新陳代謝をちゃんとさせてくれと悲鳴を上げているのが日本経済。(金融政策を化粧品などと一緒にするな、愚弄するな、という反論は受け付けませんので、悪しからず。)

 たとえ話はさておき、国民が困惑している状況であるからこそ、たとえそれが結果的に国民の理解不足で終わったとしても、それでもなお理解してもらうよう丁寧な説明を心掛けるのが中央銀行の筋というもの。であるにもかかわらず、政策変更の際の記者会見を伝える記事では反論としていますが、「政策の詳細を国民が理解しないと効果がないということはない」と半ば開き直っておられるようなご様子も。セントラルバンカーとしての矜持はいずこに。

 実はワタクシの銀行員としてのキャリアはディーリング・ルームの中でも短期金融市場といって、日銀からの資金供給に直接関わる部署でスタートしたものですから、少しばかり気になったことを拾い上げたいと思います。

 まずは黒田氏の政策が「異次元」とされてきたことからして、かなりの違和感があります。そう考える理由を説明するためには、日本の政策金利の歴史的な経緯をお伝えする必要があるでしょう。

 日本は20年ほどゼロ%近くの政策金利を採用してきました。そのスタートは公定歩合が0%の大台に突入した1995年9月8日です。ちなみに当時の米国の政策金利であるFFレートは5.75%でしたので今からしてみればとんでもない日米金利差があった時代でもあります。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story