コラム

「2国家解決」という幻想と怠慢──中東和平、日本が果たすべき真の責任

2023年01月11日(水)12時25分
ハマス

ハマスへの支持が現実には広がる(創設35周年パレード) IBRAHEEM ABU MUSTAFAーREUTERS

<当のパレスチナ人たち自身も「2国家解決」を支持しているのか──世論調査から読み解く>

「わが国は、イスラエルと将来の独立したパレスチナ国家が平和かつ安全に共存する二国家解決を支持している」

外務省ホームページには「中東和平についての日本の立場」についてこう明記されている。2021年8月17日にパレスチナを訪問した茂木敏充外相も、現地紙アル・クドゥスへの寄稿で「日本は将来の独立したパレスチナ国家とイスラエルが平和かつ安全に共存する『二国家解決』を支持している」と述べている。

二国家解決は1993年のオスロ合意以来、中東和平問題の目指すべきゴールであり、国際社会が認める既定路線だとされてきた。

しかし当のパレスチナ人たち自身が、実は二国家解決を支持していないとしたらどうだろう。パレスチナ政策調査研究センター(PSR)が昨年12月13日に発表した世論調査によると、二国家解決を支持しない人の割合は66%と過半数を大きく超えた。支持する人の割合は32%と、3カ月前の調査の37%と比較しても減少している。

二国家解決が現実的だと考える人は28%のみであり、非現実的だと考える人は69%に上った。現在の行き詰まりを打開するための具体策については、武装闘争を支持する人が55%と、非暴力の抵抗を支持する人を上回った。3カ月前の調査では武装闘争支持者は48%であり、その割合も増加している。もし今日、大統領選挙が行われたら現職のマフムード・アッバスに投票するとした人は36%にとどまり、ガザを実効支配するイスラム過激派組織ハマスの指導者イスマイル・ハニヤに投票するとした人の割合(54%)がこれを大きく上回った。

ハマスは12月14日に公開した創設35周年を祝う声明で「パレスチナは(ヨルダン)川から(地中)海まで、パレスチナ人の土地である。われわれは断固としてこの土地を守り、あらゆる手段で解放する正当な権利を堅持する。それには武力による抵抗が含まれる」と明言した。ハマス支持者の増加に反比例してパレスチナ自治政府の支持者は減少しており、アッバス辞任を求める人の割合は75%に上っている。

日本政府はオスロ合意以来、14億ドル以上を支援し、パレスチナの自立可能な国家建設のために積極的に貢献してきたと自負している。しかしオスロ合意から30年近くが経過した今、日本政府の掲げた目標とは裏腹に、パレスチナ独立や経済的繁栄の達成はおろか、日々の暮らしすらままならず、暴力に解決を見いだす人々が増えている現実をPSRの調査結果は明らかにしている。

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

世界の石油市場、26年は大幅な供給過剰に IEA予

ワールド

米中間選挙、民主党員の方が投票に意欲的=ロイター/

ビジネス

ユーロ圏9月の鉱工業生産、予想下回る伸び 独伊は堅

ビジネス

ECB、地政学リスク過小評価に警鐘 銀行規制緩和に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 9
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 10
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story