コラム

認知戦で狙われているのは誰なのか?──影響工作の本当の標的

2025年09月03日(水)17時58分
認知戦で狙われているのは誰なのか?──影響工作の本当の標的

DC Studio -shutterstock- 

<認知戦は、もはや日常のニュースやSNSの中で進行している。だが語られるのは、攻撃の手口や発信源ばかりで、肝心の「誰が狙われ、どのような影響を受けているのか」は明らかにされていない>

なぜか語られることのない認知戦の対象と効果、理由

認知戦、デジタル影響工作、偽・誤情報などさまざまな呼び方をされる影響工作が国際的にも日本国内でも話題になることが増えてきた。

しかし、報道や政府の発表で語られるもののほとんどは、「どのような行為(攻撃)が行われたか」、「誰(どこの国)が行ったのか」が多い。

先日の参院選の最中にもロシアからのデジタル影響工作疑惑が話題となったが、中心になったのは疑惑の元となったアカウントの活動内容であった。

誰に、どのような影響があったかが具体的、定量的に語られることはなかった。SNS上での拡散の状況や影響を与える可能性については言及があったくらいだ。

もちろん、相手の攻撃を検知し、止めることは重要だが、認知戦の攻撃はいわゆる否認可能性が高いため扱いが慎重にならざるを得ず、低コストなうえ、民間企業や犯罪組織をプロキシとして使うこともできるのでひとつの組織をつぶされてもいくらでも攻撃を行うことができる。

つまり、いくら攻撃を検知し、攻撃を阻止しても、それは対症療法にしかすぎず、認知戦の攻撃が止むことはない。

そもそもロシアは相手に検知させ、対症療法的に対処させることで負荷をかけることも目的にしているので、対症療法を繰り返すのは相手に操られているだけとも言える。

ふつうなら事件あるいはその可能性を検知した際には、影響評価を行い、対応の優先度を決める。

なんの影響もない出来事を大々的に報道して脅威を煽ったり、対策のために予算と時間を費やすのは無駄なことのはずだ。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

IBM、コンフルエントを110億ドルで買収 AI需

ワールド

EU9カ国、「欧州製品の優先採用」に慎重姿勢 加盟

ビジネス

米ネクステラ、グーグルやメタと提携強化 電力需要増

ワールド

英仏独首脳、ゼレンスキー氏と会談 「重要局面」での
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story