コラム

中東の沙漠で洪水が頻繁に発生する理由

2018年12月21日(金)16時00分

日本の最新の土木技術で何とかならないものか

しかし、個人的にはそれ以外の要素も忘れてはならないと思う。気候変動が大きな話題になる以前から沙漠がちの中東では、実は意外なほど頻繁に洪水が発生していたのである。わたし自身、1980年代末から2002年まで断続的にアラブ諸国に住んでいたのだが、その間、何度か洪水を経験している。

ただし、日本の洪水のように、川が決壊し、周辺の家々を飲み込んでいったりとか、山間部の集中豪雨が土石流となったりという類のものではない。

中東では多くの場合、洪水は都市と沙漠で発生するのである。わたしが中東ではじめて体験した洪水は、ヨルダン以上の沙漠の国クウェートにおいてであった。場所はクウェート市のど真ん中であったと記憶している。

車を運転していたとき、対向車が泥だらけになっていたので、いぶかしく思っていたら、その先が通行止めになっていて、さらに先のほうでは何台かの車が水没していた。このときは、少なくとも目の見える範囲では雨は降っていなかったので、かなり離れた場所で降雨があったのだろう。それぐらいでも洪水になってしまうのだ。

実はこの類の洪水が中東諸国では一般的なのである。クウェートもそうだが、サウジアラビア、あるいはエジプトでも、土砂降りの雨でなくても、どこかで一定量の雨が降ると、水が道路を伝わって一番低いところに流れ込み、そこら辺一帯が冠水してしまうのだ。理由はきわめて単純で、要するにこれらの国ぐにでは道路の排水設備が皆無か、極端に貧弱なのである。

年に何度かしか降らない雨に備えて立派な排水設備をつくるのは、コストパフォーマンス的にはよくないのだろう。いくら大金持ちの産油国でもそれは同じだ。しかし、それをケチったがゆえに、毎年のように洪水で犠牲者を出すというのも政治的にはよろしくない(実際、被害が出るたびに、担当官の首が飛ぶらしい)。

したがって道路や住宅街での排水設備を安く設置できるような技術を開発すれば、中東ではいい商売になるのではないかと思うのだが、日本の最新の土木技術で何とかならないものであろうか。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ワールド

ウクライナ南部オデーサに無人機攻撃、2人死亡・15

ビジネス

見通し実現なら利上げ、不確実性高く2%実現の確度で

ワールド

米下院、カリフォルニア州の環境規制承認取り消し法案
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story