コラム

超格差を生む「ギグ・エコノミー」残酷物語――FB共同創業者が救済策を提案

2018年03月23日(金)14時10分

自分のような富裕層の所得を低所得層に分配すべきと主張するフェイスブック共同創業者、クリス・ヒューズ(2010年) Adam Hunger-REUTERS

<アメリカ人の半数は400ドルの臨時支出も賄えない崖っぷちで暮らしている。ならば「低所得世帯に月額500ドルの給付金を与えよう」と、フェイスブック共同創業者で「トップ1%」のクリス・ヒューズは言う>

「ギグ・エコノミーは米国の雇用を破壊し続け、人々の生活を根底から変えてしまっている」――2月20日、米CNBCのニュース番組に出演したフェイスブック共同創業者のクリス・ヒューズ氏(34)は、米国で拡大するデジタル経済について、こう警告した。

同氏は、ハーバード大学在学中の2004年、マーク・ザッカーバーグ氏とともにフェイスブックの立ち上げにかかわり、2007年の退社までに5億ドルを手にした米国有数の若手ビリオネアだ。2008年の米国大統領選挙では、オバマ陣営でデジタル戦略の指揮を執り、脚光を浴びた。

急に400ドル出せますか

いわばニューエコノミーの寵児であるヒューズ氏が米国の現状と将来に警鐘を鳴らす背景には、目先の好景気や記録的な低失業率、人手不足などで見えにくくなっている「格差拡大」への深い懸念がある。

「米国人の半数は、400ドルの臨時支出さえままならない」と、ヒューズ氏が指摘するように、多くの米国人は、失業や病気、事故で働けなくなるなどして収入が途絶えると、取り崩せる貯金がほとんどない。2017年5月に発表されたFRB(米連邦準備理事会)の報告書によると、400ドルの臨時支出も捻出できない人が44%にのぼっている。借金をするか、何かを売ってお金を用立てるしか道がないという。

そこで、ヒューズ氏が提案するのが、年収5万ドル未満の世帯に月額500ドルの給付金を与えるという制度。収入が安定しない勤労世帯に、毎月、決まった額のお金が入ってくるというセーフティーネットを与えることが目的だ。財源は、ヒューズ氏のような「トップ1%」の所得税率を50%にまで引き上げることで可能になるという。全世帯に最低所得を保障するUBI(ユニバーサル・ベーシック・インカム=最低所得保障)に似たアイデアだ。

格差拡大の一要因は、アプリやクラウドソーシングなど、インターネットを介したギグ(単発の仕事)の発注と受注から成る経済「ギグ・エコノミー」の台頭により、特にニューヨークなどの大都市でフリーランサーやインデペンデントコントラクター(個人請負)が増えていることだ。こうしたオルタナティブ・ワーク(代替的な仕事)に就く人たちは、雇用契約にのっとり安定した収入や福利厚生を享受できる「従業員」に比べ、労働条件が悪い。

現在、米国では、買い物・宅配・家事などの代行から出張ヘアメイク、会議や講演の書き起こし、ビデオの字幕作成、ライドシェアまで、シリコンバレーやサンフランシスコを中心としたスタートアップ企業などが、さまざまなサービスを安価な値段で提供している。それに伴い、フリーランサー市場が急拡大しているのだ。

プロフィール

肥田 美佐子

(ひだ みさこ)ニューヨーク在住ジャーナリスト。東京都出身。大学卒業後、『ニューズウィーク日本版』編集などを経て、単身渡米。米メディア系企業などに勤務後、2006年独立。米経済・雇用問題や米大統領選などを取材。ジョセフ・スティグリッツ、アルビン・ロスなどのノーベル賞受賞経済学者、「破壊的イノベーション」論のクレイトン・クリステンセン、ベストセラー作家のマルコム・グラッドウェルやマイケル・ルイス、ビリオネアAI起業家のトーマス・M・シーベル、ジム・オニール元ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長など、米(欧)識者への取材多数。元『ウォール・ストリート・ジャーナル日本版』コラムニスト。『週刊東洋経済』『経済界』に連載中。『フォーブスジャパン』などにも寄稿。(mailto:info@misakohida.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みんなそうじゃないの?」 投稿した写真が話題に
  • 4
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 7
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    インド映画はなぜ踊るのか?...『ムトゥ 踊るマハラ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story