ニュース速報
ワールド

アングル:現実路線に転じる英右派「リフォームUK」、トランプ氏から刺激

2025年11月03日(月)07時54分

英国の右派ポピュリスト政党「リフォームUK」は不法移民、欧州連合(EU)や主要政党を激しく非難することで、支持を急拡大させた。写真は、ブレグジット(EU離脱)の立役者だったナイジェル・ファラージ党首。10月27日、ロンドンで撮影(2025年 ロイター/Toby Melville)

Elizabeth Piper

[ノーサンプトン(英国) 29日 ロイター] - 英国の右派ポピュリスト政党「リフォームUK」は不法移民、欧州連合(EU)や主要政党を激しく非難することで、支持を急拡大させた。だが今は地方税やごみ収集、路面補修といった国民の生活に根ざす問題にも対応を迫られ、党の政権担当能力が初めて試されている。

リフォームUKは2018年に「ブレグジット(英国のEU離脱)党」として設立され、21年に改称した。ブレグジットの立役者だった政界の古株ナイジェル・ファラージ党首のもと、5月の地方選では23自治体のうち10自治体において議会の支配権を獲得するなど躍進。脱炭素目標や「ウォーク(社会意識の高い)」政策の撤廃など、自らの政治理念を実行に移す機会を得た。

同党が有権者の支持を得れば、世論調査での大幅なリードを追い風に与党労働党と最大野党保守党から支持を奪い、ファラージ氏が次期首相となる可能性もある。

リフォームUKは必要な公共サービスを維持しつつコスト削減を進めるという公約を掲げており、イーロン・マスク氏が率いた米国の政府効率化省(DOGE)の取り組みを手本としている。ただ政権を担ったことはこれまでなく、下院での議席数は定数650のうち5にとどまる。

世論調査では現在10ポイントのリードを保っており、29年の次期総選挙までに主要政党に代わる本格的な選択肢となり得るかどうかが焦点と言える。

ファラージ氏がトランプ米大統領の当選に刺激を受けたと述べているとおり、移民の取り締まりや製造業再生のための工場再開、気候変動対策の撤廃といった点で両者の立場は似通っている。

リフォームUKは政権を獲得した場合、第2次大戦以降で最大規模の政府支出改革を実施し、5年間で2250億ポンド(約45兆3000億円)を節約できると約束している。

ただ経済学者らは、この計画や年間900億ポンドの減税策を非現実的だと批判。22年に保守党のトラス元首相が減税策を打ち出して債券とポンド市場が混乱に陥り、辞任に追い込まれた例と同様、市場の反発を招く恐れがあると警告した。

ファラージ氏は財政均衡を維持することを誓い、政権として「支出のための借り入れは決して行わない」と明言している。そのため、リフォームUKが進める「DOGE式」効率化には限界がある。ロイターの取材に応じた党幹部らは、現時点ではより現実的な対応に重点を置いていると述べた。

労働党のスターマー首相への不満が高まる中、リフォームUKの人気は今年急上昇している。世論調査会社ユーガブは9月、次回の総選挙で同党が過半数まであと15議席という311議席を獲得する可能性があると予想した。

だが抵抗勢力から政権与党への移行は、地方レベルであっても複雑であり精査を要する。「ドイツのための選択肢(AfD)」やフランスの国民連合(RN)など欧州の右派政党だけでなく、リフォームUKもその点は認識し始めている。高いレベルの規律と組織力も必要だ。

<債務削減、ネットゼロ>

ロンドンから約100キロ北西に位置するウエストノーサンプトンシャー統一自治体議会のマーク・アーノル議長は、リフォームUKの所属だ。住宅サービスや廃棄物収集から成人向け社会福祉や児童サービスまであらゆる地方行政を監督している。

英国各地の地方自治体は長年にわたり多額の負債を抱え、政府の予算削減や社会福祉費用の高騰、場合によっては不適切な投資に悩まされてきたが、リフォームUKはこれに取り組むと約束してきた。

アーノル氏が率いる地方議会は「ネットゼロ(実質排出ゼロ)」の気候変動目標について「そもそも達成不可能」として目標値を引き下げた。児童福祉団体や地方議会と連携し、3年間で100万ポンドの削減を目指すソフトウエア契約の再交渉を進めるほか、アーノル氏はリサイクルセンターの効率化も計画している。

特別な教育ニーズや障害を持つ児童の交通手段も見直しが進んでいる。このサービスには1550万ポンドの費用がかかっており、さらに1500人の子どもが支援の認定審査を受けることから、費用の増加が見込まれている。

アーノル氏は、サービスを中止するのではなく、効率化のためにルートを見直し、子供らを乗せるミニバスを導入すると述べた。

ただ、リフォームUKの提案がすべて通ったわけではない。

地元紙によると7月には、ネットゼロ目標の廃止に反対する環境活動家らが仮装し、音楽を演奏しながら市議会に乱入したため、議員らは別の部屋に移動しなければならなくなった。

リフォームUKは反移民の立場で知られ、ワクチンに対して懐疑的な姿勢を示すこともあった。これに対しアーノル氏は「財政的に責任ある」政権を運営できるよう「現実的な判断」を重視していると述べている。

<経験豊富な人材を求めて>

ファラージ氏は、党の組織的経験を深めるためには他党からの人材受け入れが必要だと考え、支持率を高めるために急進的な改革を進めている。

たとえば保守党議長で無任所大臣だったジェイク・ベリー氏が7月、リフォームUKに加わった。24年3月以降、保守党から移籍してきた現役および元議員は19人いる。

ベリー氏は保守党が「変化を実現するよりも現状維持に関心を持つようになった」と述べ、リフォームUKが英国のために掲げる野心的な方針についてファラージ氏に説得されたと語った。

元保守党幹部らの採用についてファラージ氏は、変革のためには彼らの経験が必要だと擁護。9月、党員に向けて「我々には弱点がある。それは幹部の中に、政権運営の経験のある者がいないことだ」と語った。

24年に与党の座を奪われた保守党のベーデノック党首は、リフォームUKへの離党者についての懸念を繰り返し否定。今年9月には「(有権者の)我々に対する怒りはまだ消えていない。通常であれば政権の有力候補とはみなされないような政党が、勢力を伸ばしている」と述べたほか、リフォームUKが「まるでビールの無料配布のように、実現困難な甘い約束をして有権者の関心を引いている」と非難した。

与党労働党もリフォームUKを攻撃し、同党が移民の大規模な国外追放という「人種差別政策」を計画していると非難している。スターマー首相は5月、リフォームUKの提案を、わずか6週間余りで辞任したトラス元首相の政策になぞらえ、その計画には「全く財源が確保されていない何十億ポンドもの支出」が含まれていると述べた。

これに対しファラージ氏は、リフォームUKによる権力掌握の可能性をちらつかせて恐怖をあおるという「汚いやり口」を使っていると非難。16年の国民投票でEU離脱を訴えた際に自身が受けた批判と重ね合わせてみせた。

意思決定の場から離れたところにいる住民のエリザベス・スネドカーさんは警戒している。「実際に責任を負う必要がないなら、約束するのは簡単だ」と彼女は言った。

「なんでも請け合っておいて、結局実現できないかもしれない」

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ベルギー、空軍基地上空で新たなドローン目撃 警察が

ワールド

北朝鮮との対話再開で協力を、韓国大統領が首脳会談で

ビジネス

再送-中国製造業PMI、10月は50.6に低下 予

ワールド

イスラエル、レバノンにヒズボラ武装解除要請 失敗な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中