アングル:マクロン氏、秋風のセーヌ河畔に孤影 辞任か解散か狭まる選択肢

フランス新内閣が発足から1日も持たず総辞職に追い込まれた後、秋深まる寒い朝のセーヌ川のほとりを1人歩くマクロン大統領の姿があった。仏レンヌで1月20日、代表撮影(2025年 ロイター)
Michel Rose
[パリ 6日 ロイター] - フランス新内閣が発足から1日も持たず総辞職に追い込まれた後、秋深まる寒い朝のセーヌ川のほとりを1人歩くマクロン大統領の姿があった。
護衛が前後で距離を保ちながら従う中、マクロン氏は黒いオーバーコートを身にまとい、鋼鉄製の門を抜けて石造りの堤防へと足を運んだ。
遠くから撮影され、フランスのテレビで放映されたこの光景は、1960年代後半に大統領を辞任したシャルル・ドゴール氏がアイルランドの風が吹きすさぶ草原で心を癒やそうとした行動を彷彿とさせる。まさに自身の政治の時代が終わりを迎えるとともに、内面へと後退していく指導者そのものだった。
マクロン氏の大統領任期は2027年までだが、6日にルコルニュ首相が辞任したことで、過去2年間に自ら任命した首相の交代は5人目となり、かつてフランス政界の寵児だったマクロン氏も任期を全うできなくなる確率が高まっている。
ルコルニュ氏に対してマクロン氏は、ぎりぎりまで野党と危機打開に向けた折衝を続けるよう指示。国民議会(下院)を再び解散するか、大統領を辞任するかという残された選択肢のどちらも嫌悪する姿勢を示した。
ただマクロン氏の人気低下による孤立感は深まるばかりで、かつての同志や盟友らも、27年の選挙であわよくば後釜を狙おうとしてマクロン氏と距離を置くようになっている。
6日に公表された最新の世論調査では、国民の半数弱が現在の政治危機の責任はマクロン氏にあると回答し、51%はマクロン氏が辞任すれば事態が打開できると考えていることが分かった。
極右政党の国民連合(RN)に属するフィリップ・バラール国民議会議員はX(旧ツイッター)への投稿で「マクロン氏は方向性ないし支持をなくして孤立しており、結論を出さなければならない。つまり辞任か、解散かだ」と述べた。
<崩れた共通基盤>
マクロン氏は昨年、国民議会の早期解散総選挙という政治的賭けに出たものの見事に失敗し、思想的に対立する政治勢力がいずれも単独で過半数議席を確保できない「ハング・パーラメント」を生み出しただけに終わった後、少数与党内閣を通じて何とか事態を前に進めようともがき続けている。
投資家がフランスの財政赤字拡大への懸念を強める中で、減税と年金制度改革という自身の政治的実績を守り抜こうと決意したマクロン氏が採用してきたのは、必要に応じて中道や保守の各会派と連携する作戦だ。
1年余りにわたって政府は財政赤字削減策の議会通過に苦戦し、2人の首相が財政再建に失敗して辞任した一方、いわゆるフランス政治の「共通基盤」は何とか維持されていた。
しかし保守系の大物政治家でルコルニュ内閣の閣僚に指名されたブリュノ・ルタイヨー氏が5日、公然と内閣を批判する劇的な造反を行ったことで共通基盤の枠組みは劇的に崩れ去った。
マクロン氏としては、保守勢力がだめなら左派の社会党を首相に任命する手はあるが、富裕層課税強化や年金改革撤回という社会党の主張では、連立相手の確保が難しい。
<辞任圧力>
今後マクロン氏への圧力が弱まる公算は乏しい。
RNを事実上率いるマリーヌ・ルペン氏はすぐさま解散総選挙を要求した。背景には、世論調査でRNが優勢となっていることがある。
政治アナリストのスチュワート・ショー氏は「RNは中道勢力崩壊で恩恵を受け、不満を持つ有権者を取り込めるので、解散は最終的な政権奪取へのまたとない機会とみている」と解説した。
マクロン氏に辞任を求める声も以前は一部に限られていたが、次第に主流意見になりつつある。
カンヌ市長で保守系の有力政治家として台頭してきたダビッド・リスナール氏はソーシャルメディアで「フランスの国益はマクロン氏が辞任の日を定めることを要求している。統治機構を維持し、(昨年の)無理筋の解散以来避けられなかった状況を元に戻すために」と訴えた。
マクロン氏は繰り返し任期を全うする意向を示してきた。ただ受け入れやすい選択肢が乏しい中で、1969年のドゴールのように劇的な形での辞任を選ぶかもしれない。