ニュース速報
ワールド

アングル:インドでリアルマネーゲーム規制、ユーザーの闇市場流入促す懸念も

2025年09月14日(日)08時12分

 インドで最近、金銭のやり取りが発生するオンラインゲームが禁止されたことを受け、こうしたゲームに依存する人々が規制外のアプリや海外のプラットフォームに流れ、新たな経済的・社会的リスクが生じる可能性があると、オンラインで仮想スポーツチームの成績を競う「ファンタジースポーツ」ゲームの専門家らは警告している。写真はスマートフォンを使う男性の手。ニューデリーで3月撮影(2025年 ロイター/Priyanshu Singh)

Annie Banerji

[ニューデリー 9日 トムソン・ロイター財団] - インドで最近、金銭のやり取りが発生するオンラインゲームが禁止されたことを受け、こうしたゲームに依存する人々が規制外のアプリや海外のプラットフォームに流れ、新たな経済的・社会的リスクが生じる可能性があると、オンラインで仮想スポーツチームの成績を競う「ファンタジースポーツ」ゲームの専門家らは警告している。

モディ政権は8月末、経済的損失と依存リスクを理由に、オンライン上でユーザーが入金し、賞金を得ることが可能な「リアルマネーゲーム」の禁止を発表。クリケットのファンタジースポーツゲームや、カードゲームのラミーやポーカーといった多くの有料アプリが閉鎖された。

「中毒性があるため、多くのユーザーが海外のプラットフォームに移り、ドーパミンを放出できる別の手段を見つけることになるだろう」とムンバイを拠点とするファンタジークリケットのアナリスト、ヴィレン・ヘムラジャニ氏はトムソン・ロイター財団に語った。

ヘムラジャニ氏は「現在は全てが規制外のため、不正や詐欺につながる場合もある。ユーザーが何かで勝っても、金が戻ってくる保証はない」と述べ、さまざまなアプリがショッピングサイトを装い、違法にコインやトークンを提供している例を挙げた。

2025年の「オンラインゲームの促進と規制に関する法案」は、米ニューヨークのタイガー・グローバルや、印ベンガルールのピークXVパートナーズといったベンチャーキャピタル企業が支える業界に衝撃をもたらした。同業界の市場価値は29年までに36億ドル(約5300億円)に達すると予想されていた。

インドのゲームプラットフォーム「モバイルプレミアリーグ(MPL)」や競合する「ドリーム11」は近年、ファンタジークリケットゲームのユーザーに対し、賞金を提供することで人気を集めていた。プレイヤーは実在する選手で仮想の「チーム」を編成し、選手の実際の試合でのパフォーマンスに基づいてポイントを獲得するという仕組みだ。

両アプリとも禁止令の施行後、賞金が発生するゲームを中止した。

業界側はこれらのゲームについて、スキルに基づいておりギャンブルではないとの見方を示した。ギャンブルは同国で既に厳しい規制下にある。

<苦難>

ファンタジースポーツや、その他のリアルマネーゲームアプリに批判的な人々は、結果をコントロールできない試合にお金を賭けることになるとして、こうしたゲームは本質的にはギャンブルであると指摘する。

モディ政権は、金銭のやり取りを伴うゲームが依存症を引き起こすとして繰り返し不満を示し、「社会悪」に取り組む義務があると主張していた。

「貯蓄を失った家庭があり、若者は依存症に陥っている。ゲームに起因する経済的苦痛により自殺したという痛ましい事例もある」とインド政府は新法に関連する声明で述べた。

世界保健機関(WHO)はゲーム依存症について、制御力を失い、日常生活よりもゲームを優先し、有害な状態でもゲームをし続けるといった特徴を挙げた。

印グルグラムにあるベンチャーキャピタル企業、エクシミウス・ベンチャーズの2024年の報告書によると、インドのゲーム人口は約4億4400万人で、うち約1億3800万人は有料ゲームをプレイしているという。

一部のユーザーは今回の禁止措置により、長期間隠れて運営されてきた「ギャンブル闇市場」が活発化するだろうと予測する。

「海外の違法ゲームにアクセスするため、仮想プライベートネットワーク(VPN)や、国外のブックメーカー(賭け屋)を使う人々がますます増えるだろう」とバルン・シャルマさん(24)は語った。シャルマさんは主にバスケットボールなどのファンタジーゲームを8年間プレイし、1回のゲームで最高120万ルピー(約200万円)を獲得したこともあるという。

法案が可決されて以降、テレグラムなどのメッセージアプリ上で賭博の勧誘などが急増したとシャルマさんは話す。禁止令が施行されて以来、「心が張り裂けそうで、前に進めない」と嘆いた。

<代替案>

新法では、リアルマネーゲームのための取引を銀行や決済会社が仲介することが禁止されている。

意志の強いプレイヤーは、インド政府の管轄外である暗号資産(仮想通貨)ウォレットに入金したり、米決済会社ペイパルを利用するといった回避策に出る可能性もある。

インド電子・情報技術省に禁止措置や、潜在的リスク、今後の動きなどに関するコメントを要請したが、返答は得られなかった。

ゲーム業界は各社が規模を縮小させるか、完全に閉鎖せざるを得なくなっていると警告している。

MPLは現地従業員の約6割を解雇すると発表した。

ラミーやポーカーゲームを提供するゲーム会社A23は、禁止令に異議を唱えて訴訟を起こした複数企業のうちの1つだ。インド最高裁は8日、複数の申し立てをまとめて審理すると発表したが、時期については明らかにしていない。

オンラインゲーム支持者の中には、ゲーム時間や支出額、入金額と賞金額の比率に制限を設けることで、依存症や経済的リスクを抑えられると主張する声もある。

ベンガルールでスポーツとゲーム関連の法律を専門とするナンダン・カマト弁護士は、ユーザーの権利や、デジタル領域での時間やお金の使い方について、より多くの議論が必要だと指摘する。

「スキルゲーミングを全面的に禁止することは、表現や職業選択の両方に対する不当な制限にあたると明確に主張することができる」とカマト氏は言う。

カマト氏は政府に対し、ゲーマーの欲求やニーズを満たす健全な代替案を促進し、デジタルヘルスプログラムを通じて依存症からの脱却を支援し、ユーザーに有害になりうる市場での取り締まりを強化するよう求めた。

ゲーム企業は、技術や人工知能(AI)、膨大なユーザーデータベースの拡大とともに成長する可能性もあるとカマト氏は分析した。

「こうした企業の一部は、新たな戦略でもう一勝負するかもしれない」

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:米移民の「聖域」でなくなった教会、拘束恐

ワールド

トランプ氏、NATOにロシア産原油購入停止要求 対

ワールド

中国が首脳会談要請、貿易・麻薬巡る隔たりで米は未回

ワールド

アングル:インドでリアルマネーゲーム規制、ユーザー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中