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マクロスコープ:自民は総裁選モード 注目議員の経済政策を読み解く

2025年09月08日(月)10時56分

 9月8日、石破茂首相(自民党総裁)が辞任を表明したことで、自民党内は早くも総裁選モードだ。写真は2024年9月、同月行われた総裁選のバナーが掲げられた自民党本部(2025年 ロイター/Issei Kato)

Tamiyuki Kihara

[東京 8日 ロイター] - 石破茂首相(自民党総裁)が辞任を表明したことで、自民党内は早くも総裁選モードだ。すでに複数の新総裁候補の名前が取り沙汰されている。注目を集める5人の国会議員は過去どういった経済政策を掲げてきたのか。2024年9月に実施された前回総裁選時の各氏の主張から読み解く。

前回の自民党総裁選は史上最多の9人が乱立した。立候補には20人の所属国会議員による推薦が必要だ。当時、自民の国会議員数は368人。ただ、昨年の衆院選、今年の参院選を経て議員数は約70人減っており、推薦人集めの観点から立候補者は前回に比べて絞られるとの見方が出ている。

また、自民、公明両党が衆参ともに少数与党となっている現状から、新総裁が国会での首班指名で首相に選出されるかは不透明な状況だ。

◎高市早苗前経済安全保障担当相

前回、決選投票で石破氏に敗れたものの、1回目の投票では党員・党友票で首位を獲得した。選挙戦では「すべての国力を強くするためには何よりも強い経済が必要。あくまでも、どこまでも経済成長を追い求める」とし、「供給を超える需要が供給サイドに圧力になり生産性を上げる形ができ、給料、購買力が上がる良い循環をつくりたい」と述べていた。

財政健全化については「(財政赤字は)債務だけで見るか資産と債務のネットで見るかの違い」と持論を展開し、「ネットで見ると政府保有資産の利払い収入も入ってくる。G7(主要7カ国)で健全な方から2番目であまり心配していない」と主張していた。

また、日銀の利上げ政策について「はっきり言うと早い。まだ金融緩和を続けるべきときだ」と断言。「若い方が家を買いづらくなったり、生産性を上げるための投資を企業がためらうことになったりしてはいけない」と説明していた。

◎小泉進次郎農林水産相

注目された主張は「解雇規制の見直し」だった。「一人ひとりが働きやすい環境をつくる」ことを掲げ、リスキリングや再就職支援の提供を企業に義務付ける政策を表明。「いまのままの労働市場の形を維持すると、大企業の業績が悪くなって解雇が出てくる」とした上で、「新たなところに移動しやすいようにしていく。企業が働く方へきめ細かい対応をしているかが計られる時代。非正規が正規として雇用されやすい社会をつくる」と述べていた。

また、「日本経済のダイナミズムを取り戻すため、聖域なき規制改革を推進する」とし、ライドシェアの完全解禁やスタートアップ企業の株式譲渡益への課税免除などを主張。年金受給世帯や低所得者への支援や、地方創生臨時交付金を拡大することで幅広い産業を支援する政策も掲げていた。

◎小林鷹之元経済安保担当相

「国家の運営の基本は暮らしを豊かにする経済と安全保障だ」と述べ、戦略分野を選定して重点支援する「シン・ニッポン創造計画」や、サービスのデジタル化を推進する「シン・デジタル日本」を掲げた。中小企業の収益回復を「日本経済の好循環づくりの鍵」と位置づけ、「価格転嫁の取り組みをあらゆる面から強力に支援する」とも主張していた。

社会保障財源については、「EBPM(合理的根拠に基づく政策立案)で医療資源の配置が適正にできないか。DXを進めることで重複する検査、投薬も出てくる。健康増進にインセンティブを与える、予防に舵を切ることなども考えられる」とし、「社会保障未来会議を立ち上げて、すべての選択肢を載せる」と述べていた。

◎茂木敏充自民前幹事長

「日本は物価高、人口減少などの課題に直面している。国民の間には負担増への不安が高まっている。経済を再生し、一人ひとりの所得、年収を上げていく」とし、「増税ゼロの政策推進」を掲げていた。

防衛費捻出のため政府が進める増税政策を引き合いに、「この間、日本経済は間違いなく改善している。1.5%の成長で税収は2兆円上がる。外為特会の一部を米国債以外で運用することで数兆円単位の財源が出てくる。必ず財源は出る」としていた。

社会保障政策については「負担と給付の在り方の見直し」が必要と強調。「ある程度余裕のある方には払っていただき、その分低所得の若者や困っている人へは給付を充実する。バランスのとり方は必要になってくる」と語っていた。

◎林芳正官房長官

「アベノミクスで厳しいデフレから首を出した。新しい資本主義、成長と分配の好循環で何とかやってきた」と、岸田文雄前政権の政策を評価しつつ、「悲願の実質賃金プラスがちらほら出てきた。この流れを確かなものにしていく」とし、「実質賃金プラスが実感できる経済再生」を目指す考えを示していた。

また、「底上げによる格差是正」を掲げ、価格転嫁の促進や中小・小規模事業者への支援拡大も主張。非正規雇用の正規化やチャイルドペナルティ(子どもをもつことによる不利な状況)の解消など雇用環境の改革を提示したほか、医療・介護・福祉人材の処遇改善や医療・介護DX化を推進すると語っていた。

(鬼原民幸 編集:橋本浩)

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