ニュース速報
ワールド

アングル:トランプ氏の移民摘発で止まる建設工事、人手不足とコスト増が直撃

2025年07月29日(火)15時20分

 7月28日、米南東部アラバマ州の港湾都市モービル。建設現場監督のロビー・ロバートソン氏は炎天下、完成が近づいていた大型娯楽センターを不満気な顔で見回っていた。写真は14日、人手不足に直面するモービルの建設現場で撮影(2025年 ロイター/Megan Smith)

Tim Reid

[モービル(米アラバマ州) 28日 ロイター] - 米南東部アラバマ州の港湾都市モービル。建設現場監督のロビー・ロバートソン氏は炎天下、完成が近づいていた大型娯楽センターを不満気な顔で見回っていた。

現場は不気味なほど静かだ。2000万ドルを投じたこのプロジェクトは、11月1日の完工を目指して工事が順調に進んでいた。ところが5月末、370キロ離れたフロリダ州で移民・税関捜査局(ICE)が建設現場を強制捜査したことが伝わると、労働者の約半数が恐怖で現場を離れてしまい、今では3週間の遅延が見込まれている。

ロイターの取材によると、トランプ米大統領が全米の職場で進める移民摘発の一環として、建設現場でも移民捜査が行われ、業界に大きな混乱をもたらしている。

全米住宅建設業者協会のジム・トビン最高経営責任者(CEO)は「労働者は摘発を恐れたり、実際に摘発のニュースを耳にしたりして、現場に出勤しなくなった。チーム全体が摘発を恐れて姿を消している」と明かす。

ロイターは建設業界のCEO、業界団体幹部、現場監督者など14人に取材。移民摘発がプロジェクトの遅延やコスト超過を引き起こし、技能労働者不足を深刻化させている実態が浮かび上がった。損害の規模を数値化するのは時期尚早だと彼らは語った。

超党派のシンクタンク、移民政策研究所(MPI)によると、米国に不法滞在する約1100万人のうち約140万人が建設業界で働いており、他のどの業界よりも多い。

米国勢調査局のデータによると、建設支出は2024年5月に過去最高を記録したが、今年5月までに3.5%減少した。景気後退時を除き、前年同月比で減少するのは珍しい。

移民の強制送還は、世論にも影響を及ぼし始めている。今月のロイター/イプソス世論調査によると、トランプ氏の移民政策に関する支持率は41%と、第2次トランプ政権始まって以来の最低水準に低下した。

<コストも急上昇>

移民摘発の影響が最も顕著なのは、ロバートソン氏の建設現場のような場所だ。工事の遅延が長引けばコストが急上昇しかねないからだ。

この現場の労働者100人余りはメキシコなど中米からの移民が大半で、そのほぼ全員が何日も仕事を休んだ。フロリダ州での移民拘束から7週間を経た今では半分強が職場に戻っているが、依然として大幅な人手不足に見舞われている。

22人いた屋根工事の担当作業員は12人になった。本来ならもう完成していたはずの屋根は未完成で、雷雨が頻繁に起きるこの時期にもかかわらず、建物の内部が一部さらされた状態だ。

電気工事や配管工事、内装の塗装の仕上げやジム用機材の搬入など、すべての作業が遅延している。

ロバートソン氏によると、完工が予定日の11月1日から1日遅れるごとに4000ドルの「違約金」が課せられるため、8万4000ドルの追加費用が発生する見通し。「私はトランプ氏の支持者だが、摘発は解決策にならないと思う」とロバートソン氏は言う。

同氏は、合法的に米国に滞在しているヒスパニック系労働者でさえ「肌の色」が理由でICEに摘発されるのを恐れていると語った。

この娯楽センターの建設企業を経営するティム・ハリソン氏は、米国生まれの労働者の大半は必要な技能を持っていないため、メキシコなど中米出身の建設労働者を米国出身者に置き換えるのは容易ではないと説明した。

「建設業界は共和党員だらけだ。私は反ICEではない。われわれは大統領の政策を支持している。しかし現実には、この業界はヒスパニック系移民労働者無しではやっていけない」

<危険手当て>

フロリダ州タンパで建設会社を経営するブレン・テイラー氏にとって、ICEの移民摘発は人手不足を招くだけでなく、労働コストも直接的な影響を被っている。

フロリダ州の人口の約4分の1は移民だ。テイラー氏は、屋根工事、コンクリート工事、壁板工事などの分野で、下請け労働者の3分の1から半分を失った。そして下請け業者は代わりの人材を雇うために追加の費用を支払わなければならないという。

テイラー氏の企業では、移民下請け労働者の一部が、ICEに拘束されるリスクを理由に積み増し賃金を要求している。これにより、従来1日当たり一人200―300ドルだった人件費は400―500ドルに上昇した。

「彼らが要求しているのは実質的な危険手当てだ。私はその費用を顧客、つまり住宅所有者や商業ビルの所有者に転嫁する」とテイラー氏は語った。

建設業界団体は農業、ホテル、レストランなどの業界代表者とともに今月ワシントンを訪れ、労働省と国土安全保障省に移民政策の改革を求めるロビー活動を行った。業界代表の大多数が望むのは、身元調査に合格した米国在住の外国人労働者に、建設現場で働くための一時的な法的地位を付与する手続きだ。しかし、多くの共和党議員がこの案に反対しているため、議会で可決される可能性は極めて低い。

行政当局との会合に出席した業界団体幹部は「行政当局者は、何であれ恩赦を連想させるものには非常に抵抗がある。その領域には決して踏み込まない」と語った。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英首相、パレスチナ国家承認の意向表明 ガザ惨状巡り

ビジネス

米6月求人件数、27.5万件減 関税不安で採用も減

ワールド

再送米中、関税一時停止継続で合意 首脳会談の可能性

ワールド

ガザで最悪の飢餓も、国際監視組織が警告 危機回避へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 3
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経験豊富なガイドの対応を捉えた映像が話題
  • 4
    タイ・カンボジア国境紛争の根本原因...そもそもの発…
  • 5
    グランドキャニオンを焼いた山火事...待望の大雨のあ…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「出生率が高い国」はどこ?
  • 8
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 9
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 10
    レタスの葉に「密集した無数の球体」が...「いつもの…
  • 1
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 2
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 3
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経験豊富なガイドの対応を捉えた映像が話題
  • 4
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 5
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 6
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    レタスの葉に「密集した無数の球体」が...「いつもの…
  • 9
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 10
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 5
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 6
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中