焦点:日米関税合意で世界経済の最悪事態回避、今後の主要国交渉の「目安」に

7月23日、日米両国が合意した15%の関税率は、まだ米国と交渉中の多くの国にとって「目安」となりそうで、この水準なら世界経済も最悪事態を回避し、何とか乗り切れる――。複数のエコノミストはこうした見方を示した。写真は横浜港に並べられた車両。同日撮影(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
Balazs Koranyi Francesco Canepa
[フランクフルト 23日 ロイター] - 日米両国が合意した15%の関税率は、まだ米国と交渉中の多くの国にとって「目安」となりそうで、この水準なら世界経済も最悪事態を回避し、何とか乗り切れる――。複数のエコノミストはこうした見方を示した。
日本から米国に輸出する自動車に適用される関税率は、累計27.5%から15%に下がる。8月1日以降は、他の日本製品の関税率も当初提示された25%から15%になる。
米国に対する大規模な投融資の約束を含めたこうした合意内容は、トランプ米大統領がこれまで取り結んだ一連の貿易協定の中で最も意義が大きく、8月中に交渉期限を迎える中国と欧州連合(EU)に妥結を迫る圧力にもなる。
何人かのエコノミストは、15%の関税は水準としてはなお相当高いものの、対処は可能で、不確実性によって生まれる落ち着かない環境がもたらすダメージよりも小さいと話す。実際、先が読めない状況では企業が投資計画を立てるのは不可能になった恐れがある。
ジェフリーズのモヒト・クマール氏は、トランプ氏による4月2日の「相互関税」発表に伴って、昨年約2.5%だった米国の平均輸入関税率が17%前後まで跳ね上がったと指摘。「事態が収束すれば平均関税率が15%前後になる可能性がある。その基本シナリオをわれわれは維持するが、最近のディールからこの数字は若干上がってもおかしくないことがうかがえる」と述べた。
それでも「世界は15%前後の関税なら共存できる」と強調した。
<市場に安心感>
23日の金融市場は安心感が広がり、日経平均株価(225種)が3.5%上昇しただけでなく、欧州株も自動車株主導で値上がり。今後も有益な合意が実現されるとの楽観ムードが強まった。
MUFG(ロンドン)の調査責任者を務めるデレク・ハルペニー氏は「主要国の(関税率)の基準は10─15%、もっと小さな国はそれよりやや高めになりそうだ」と予想する。
ドイツ銀行のジム・リード氏は「日米合意は8月1日に各国向け関税率が(4月時点まで)再び上昇するのではないかとの投資家の不安を和らげる効果があった」と指摘した。
一方リード氏は、過去の経験を踏まえると交渉期限ぎりぎりまで実際の結果は把握できないことも承知していると警戒感も示す。
日米合意を受けて米国の長期的なインフレ期待が小幅に低下し、米連邦準備理事会(FRB)の年内利下げ余地を多少広げた面もある。
ただ市場では来週の連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ見送りが確実視され、利下げ確率100%を織り込んでいる時期は10月以降だ。
米国と次に合意できるのはEUかもしれない。現時点でトランプ氏は8月1日以降、EU製品に30%の関税を適用する方針で、そうなればEU側も報復措置を講じると示唆している。
貿易依存度が高いEUにとって、対米貿易の壊滅をもたらす30%の関税は経済的に致命傷となるだけに、当初目指していた10%の関税率で合意する方針を幾分軌道修正し、少なくとも数ポイント高めの水準なら受け入れる意向だ。
米国と中国の交渉期限は8月12日に設定されている。
INGは、主なアジアの輸出国も既に合意したフィリピン、インドネシアに続く動きが出てくるとみている。