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アングル:中国の重要鉱物、米国へ迂回流出の実態 昨年末に禁輸

2025年07月10日(木)18時36分

 7月9日、 電池や難燃剤に使われる金属のアンチモンを巡り、中国が米国への出荷を昨年禁止して以来、タイやメキシコを通じて米国に大量に流入していることが税関統計や船舶の出荷記録から判明した。写真は中国の旗と元素の周期表のイメージ。2023年7月撮影(2025年 ロイター/Florence Lo)

Alessandro Parodi Lewis Jackson Ashitha Shivaprasad Sherin Elizabeth Varghese

[北京 9日 ロイター] - 電池や難燃剤に使われる金属のアンチモンを巡り、中国が米国への出荷を昨年禁止して以来、タイやメキシコを通じて米国に大量に流入していることが税関統計や船舶の出荷記録から判明した。

中国は通信や半導体、軍事技術に用いられるアンチモン、ガリウム、ゲルマニウムの世界への供給を独占している。米国の対中半導体規制への報復措置として中国は昨年12月3日、これらの重要鉱物の対米輸出を禁止した。

結果として貿易の流れが変化し、重要鉱物の争奪戦が激化するとともに、経済的、軍事的、技術的な覇権を米国と争う中国が規制を強化していることが浮き彫りになった。

貿易のデータは第三国を経由して米国へ輸出されていることを示しており、中国当局もこれを認めている。

業界の専門家3人がこの評価を裏付けており、その中には米国企業2社の幹部2人が含まれる。2人はロイターに対し、ここ数カ月間に中国から規制対象鉱物を入手したと語った。

米国は2024年12月から25年4月までの間にタイとメキシコから計3834トンの酸化アンチモンを輸入した。これは過去3年間の合計輸入量より多い。

一方、25年1―5月の中国の税関統計によると、中国産アンチモンの輸出先でタイとメキシコが国別の上位3位に入った。中国が対米輸出を禁じた前の23年には、どちらも上位10カ国に入っていなかった。

コンサルティング会社RFCアンブリアンによると、タイとメキシコにはアンチモン製錬所がそれぞれ1カ所あり、うちメキシコの精錬所は今年4月に再開したばかりだ。どちらの国も目立った量のアンチモンを採掘していない。

米国の25年のアンチモン、ガリウム、ゲルマニウムの輸入は、価格が上昇したという背景があるものの中国が対米輸出を禁止する前の同等以上の水準になる見通しだ。

デジタル出荷審査プラットフォーム、パブリカンの共同創業者兼最高経営責任者(CEO)のラム・ベン・シオン氏は、鉱物を積み替えた明確な証拠があるが、貿易データでは関与している企業を特定できないと指摘する。シオン氏はロイターに「私たちが目にしているのはこのパターンであり、これは一貫している」と語り、中国企業は「規制を迂回するための方法を編み出すのに極めて長けている」とも言及した。

中国商務省は5月、不特定の外国事業者が輸出規制を逃れるために「国内の法律違反勢力と結託」しており、そのような活動を阻止することが国家安全保障に不可欠だと訴えた。ロイターは昨年12月以降の貿易の流れの変化に関して中国商務省に質問したが、同省は回答に応じなかった。

米商務省、タイ商務省、メキシコ経済省もいずれもこれと同様の質問に答えなかった。

米国の法律は、米国の買い手が中国原産のアンチモン、ガリウム、ゲルマニウムを購入することを禁じていない。中国企業は認可を得ていれば、これらの重要鉱物を米国以外の国に出荷できる。

米拠点のギャラント・メタルズのCEO兼創業者のレビ・パーカー氏はロイターに対し、中国から月約200キロのガリウムをどのように調達しているのかを明らかにした。

まず、中国の買付企業が生産者から原料を入手する。その後、物流会社が鉄、亜鉛、画材といったさまざまなラベルを貼った小包をアジアの別の国を経由して米国へ送る。

パーカー氏はこの調達策が完璧ではなく、安くもないと打ち明ける。パーカー氏は500キロを定期的に輸入したいものの、大きな荷物は監視の目にさらされるリスクがあるため、中国の運送会社は「非常に慎重」だという。

<活発な輸出>

中国のアンチモンメーカー広西日星金属化工のタイ子会社タイ・ユニペット・インダストリーズがこの数カ月に米国への輸出を活発化していることが、ロイターが確認した出荷記録で分かった。

貿易プラットフォームのインポート・イエティとエクスポート・ジーニアスの記録によると、タイ・ユニペットは2024年12月から25年5月にかけて少なくとも3366トンのアンチモン製品をタイから米国へ出荷した。これは前年同期の出荷量の約27倍に相当する。

記録には貨物、関係者、積み出し港、受け入れ港が記されているが、必ずしも原料の原産地が記載されているわけではない。また、積み替えの具体的な証拠も示されていない。

タイ・ユニペットからのコメントは得られず、広西日星金属化工も質問に答えなかった。

タイ・ユニペットからの米国での出荷先は南部テキサス州に本社を置くヤングスン・アンド・エッセンで、同社は中国が対米輸出を禁止する前には三酸化アンチモンの大部分を広西日星金属化工から輸入していた。ヤングスン・アンド・エッセンとジミー・ソン社長は輸入に関する質問に答えなかった。

中国は5月、重要鉱物を外国で積み替える迂回輸出や、密輸の取り締まりを強化した。違反者には罰金を科すとともに、今後の輸出を禁止する。香港を拠点とする法律事務所ホワイト・アンド・ケースの現地パートナー、ジェームズ・シャオ氏はロイターに対し、悪質な場合は密輸として取り扱われ、5年を超える禁固刑が科されることもあると説明した。

シャオ氏によると、この法律は外国での取引であっても中国企業に適用される。外国で積み替えた場合に中国当局は、最終消費者を十分に特定しなかったとして売り手を起訴することができるという。

ただ、リスクを取ることをいとわない人にとっては、価格が記録的な高値になっているガリウム、ゲルマニウム、アンチモンの販売で大きな利益を得ることができる。

中国の税関統計によると、アンチモンとゲルマニウムの輸出は対米輸出禁止前の水準を下回っている。

ベンシオン氏は、中国当局が重要鉱物の対米輸出に歯止めをかける難題に直面しているとして「こうした政策が実施されているとはいえ、どのように取り締まるのかは全く別のシナリオだ」と語った。

ロイター
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