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アングル:銅50%関税による高騰は一時的か、過剰在庫と需要低迷で

2025年07月10日(木)11時55分

 トランプ米大統領が米国に輸入される銅に50%の関税を課すと表明すると、米国内の銅価格は過去最高値を更新した。写真は2017年10月、インド・コルカタで撮影(2025年 ロイター/Rupak De Chowdhuri)

Pratima Desai

[ロンドン 9日 ロイター] - トランプ米大統領が米国に輸入される銅に50%の関税を課すと表明すると、米国内の銅価格は過去最高値を更新した。しかし追加関税導入を見越して積み上げられた在庫などが影響を及ぼす形で、数カ月中に価格上昇圧力は和らぎそうだ。

米政府は銅輸入に伴う安全保障上の懸念に関する調査を2月に開始。トランプ氏は8日に50%の関税方針を表明したのに続き、9日にはこの関税を8月1日に発動すると発表した。

市場関係者は2月時点で、25%の追加関税が適用されると想定していたため、既に在庫は膨らんでいた。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の銅先物価格も年初から今月7日までに25%上昇した。

ところがトランプ氏が8日に表明した関税率が50%だったため、COMEXの銅先物は1ポンド=5.6820ドル、1トン=1万2526ドルと最高値を付け、国際的な指標とされるロンドン金属取引所(LME)の取引価格に対して2920ドル余りのプレミアムが乗った。

それでもパンミュア・リベラムのアナリスト、トム・プライス氏は「この追加関税に絡む全てのノイズが消えれば、米国の銅価格は下落し、LME価格に近づくだろう」と予想する。

プライス氏によると、米国内の銅需要も低調で今年の消費量は前年比16%減の132万トンになる見通しという。

需要がさえない主な理由は、各種関税措置を巡る不確実性が経済成長に水を差しているためだ。

銅需要をけん引する米製造業の直近の景況調査を見ると、縮小圏にとどまっていることが分かる。

一方で米国内の銅在庫は極めて高い水準にある。

マッコーリーのアナリストチームが、1─5月の貿易統計と6月の船荷証券のデータから分析したところ、今年上半期に米国へ輸入された銅は計88万1000トンで、基本的な必要量とされる約44万1000トンをはるかに上回っている。

同チームは「これは44万トンもの過剰在庫の存在を示しており、内訳はCOMEXに目に見える形で10万7000トン、未報告ないし産業チェーンを通じて前倒しで購入されている分が33万3000トンだ」と述べた。

<追加関税免除も>

こうした過剰在庫の一部はCOMEXの指定倉庫に送られている。COMEXの今月7日時点の銅在庫は22万1788ショートトン(20万1203トン)で、米国の港湾に世界各地から銅が到着し始めた3月終盤以降に135%も増加した。

米国に輸出された銅の大半はLMEからのもので、6月終盤のLME在庫は2月半ばから66%も減り、9万トン弱と2023年8月以来の規模に沈んだ。

一部の銅は米国の自由貿易区に保管されており、通関手続きをしないため海外への移動がより簡単にできる。

関税の支払いがベースとなっているCOMEX指定倉庫の銅は、輸出が比較的難しいが、不可能ではない。

コンコード・リソーシズの調査ディレクター、ダンカン・ホッブス氏は「税関を通った銅を再輸出できない理由はない」と述べつつ、そのためにはCOMEXのプレミアムが縮小に転じるなどの金銭的な動機が必要になるとの見方を示した。

今後の米国の銅価格に関する不透明感を助長し、恐らく押し下げ圧力になりそうなのは、トランプ政権が特定の国に対する追加関税の適用を免除する可能性だ。そうなるとCOMEXのプレミアムがはく落するだろうと複数の業界関係者は話す。

チリは免除対象候補の1つとなる公算が大きい。トレード・データ・モニターによると、昨年米国が輸入した銅の7割はチリからだった。米国はチリに対して貿易黒字を計上しており、政治的にも追加関税の適用除外にしやすい。

シティのアナリスト、トム・マルクイーン氏は、チリとカナダ、メキシコが最終的に「重要な貿易相手として、より低い25%の関税率を確保する」と見込んでいる。

もっとも今のところ前倒しで在庫を積み上げ、世界で一番割高な銅を保有している米国のトレーダーとしては、プレミアムが維持されている限り、在庫圧縮には動きづらいかもしれない。

ロイター
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