ニュース速報
ワールド

焦点:米大平原から消えゆく小麦畑、価格低下と干ばつが農家に選択迫る

2025年06月22日(日)08時02分

6月19日、 霧が立ち込めたある5月の朝、オクラホマ州北部の小麦畑では、デニス・ショーンハルスさん(写真)が作物の生育状況を調べるための年1回の巡回調査を行っていた。オクラホマ州クレムリンで6月撮影(2025年 ロイター/Nick Oxford)

Emily Schmall

[コルビー(米カンザス州) 19日 ロイター] - 霧が立ち込めたある5月の朝、オクラホマ州北部の小麦畑では、デニス・ショーンハルスさん(68)が作物の生育状況を調べるための年1回の巡回調査を行っていた。しかし既に、自身を含めた農家は一部の畑で販売用の小麦の収穫を断念していた。価格が5年ぶりの安値に下落したためだ。

テキサス州からモンタナ州に及ぶ小麦の生産地帯の農家は今年、早々に「損切り」を決断し、小麦を干し草に加工したり、プラウで畑をの土を反転させたり、家畜に開放して放牧地にするといった道を選んだ。ネブラスカ州では、小麦の作付面積が2005年の半分未満に減っている。

穀物保険に加入していれば収入を維持できる可能性もあるが、多くの農家は保険金の支払いを当てにするのが最良のビジネスモデルではないと認める。

米国の大平原地帯(グレートプレーンズ)は、有名な愛国歌「アメリカ・ザ・ビューティフル」で「琥珀色の麦の波」と称賛されてきた。この地域の州は、パン製造で好まれる米国産ハード・レッド・ウィンター小麦の大半を生産している。

しかし価格が1ブッシェル当たり5ドル前後に落ち込んだことで、米国の小麦農家は岐路に立っている。多くは損失を被るか、さもなければ小麦を家畜の飼料に回したり作物を廃棄したりするしかない。

カンザス、ネブラスカ、オクラホマ3州の農業従事者とアナリスト10人以上へのインタビューのほか、米農務省データの分析により、小麦の利益は他の作物と比べて大幅に少なくなっていることが明らかになった。

地域の一部では近年、長びく干ばつにより収穫量が減った。また降水量が十分な年でも、世界的な供給過剰により価格が圧迫されており、農家の収入は落ち込んでいる。代々小麦だけを栽培してきた農家が多いが、今ではトウモロコシや大豆の栽培、畜産への転換を余儀なくされている。

「(小麦栽培は)続けられない」とショーンハルスさん。「最終的に、可能な場合は他の作物に切り替え、そうでなければ廃業することになる」という。

米国の農家は2年前、深刻な干ばつにより小麦の約3分の1を放棄した。今年は、ひび割れた土地から健康な緑の茎が伸び、1エーカー当たりの収穫量が2016年以来の最高を記録すると期待されていた。ところが小麦価格は5月、5年ぶりの安値に沈んだ。

米農務省のデータによると、2020年以降、農家は毎年、冬小麦の作付面積の5分の1から3分の1を放棄してきた。

全国的に見ると、作付面積の大部分を占めるのはトウモロコシと大豆で、小麦は大差の3位だ。

2024年は干ばつと外国産小麦の価格低下によって米国産小麦の競争力が圧迫され、ハード・レッド・ウィンター小麦の輸出量が過去最低水準に落ち込んだ。

レイクフロント・フューチャーズのアナリスト、ダリン・フェスラー氏は「農家は採算割れだ」と指摘。多くの農家は「自腹を切り、運転資金を燃焼してきた。銀行は『利益を出せ、さもなければ農地を売ってもらうことになる』と言ってくるだろう」と語った。

<遺産だが利益はない>

小麦栽培は開拓者らが切り開いてきたもので、グレートプレンズの歴史に深く根を下ろしている。

黄金色の茎の写真はホテルのロビーや道路標識を飾り、町の名前にも小麦に関する言葉が含まれている。ネブラスカ州出身のピューリッツァー賞受賞作家、ウィラ・キャザーは有名な詩で「耕されたばかりの広大な土壌、重く黒く、力強さと厳しさに満ちて」と、この土地を称えた。

しかし現在、米国の小麦栽培は一貫して減少しており、農家はトウモロコシや大豆の生産や、牛の飼育の方が確実な利益を得られるようになった。

「小麦栽培は遺産だが、利益は出ない」と語るのは、カンザス州コルビーで4万エーカー(1万6000ヘクタール)の農場を経営するフラーム・ファームランドのロン・フラーム最高経営責任者(CEO)だ。この郡の周辺には現在、風力発電所が点在している。農家はかつて小麦栽培専業だったが、干ばつの頻発と世界的な競争による価格下落を受け、多角経営に乗り出している。

フラム氏自身は現在、主にトウモロコシを栽培しており、小麦の生産量は全体の5%にとどまることもある。「トウモロコシは確かに利益が出る」とフラム氏は語った。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米のイラン攻撃「危険なエスカレーション」、国連事務

ワールド

米のイラン核施設攻撃、米議員の反応分かれる 憲法違

ワールド

イスラエル首相「歴史を変える」、トランプ米大統領の

ワールド

お知らせー重複記事を削除します
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 2
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 6
    【クイズ】次のうち、中国の資金援助を受けていない…
  • 7
    ジョージ王子が「王室流エチケット」を伝授する姿が…
  • 8
    中国人ジャーナリストが日本のホームレスを3年間取材…
  • 9
    イギリスを悩ます「安楽死」法の重さ
  • 10
    ブタと盲目のチワワに芽生えた「やさしい絆」にSNSが…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 10
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中