焦点:米の提案に欧州反発、今年の安保会議 アジア巡り断層

6月1日、インド太平洋地域を中心とした各国の国防相らが集うアジア安全保障会議(シャングリラ会合)は、長らく米国と中国の対立が最大の注目点になってきた。写真は5月31日、シャングリア会合の閣僚昼食会の会場で撮影(2025年 ロイター/Edgar Su)
Greg Torode Fanny Potkin
[シンガポール 1日 ロイター] - インド太平洋地域を中心とした各国の国防相らが集うアジア安全保障会議(シャングリラ会合)は、長らく米国と中国の対立が最大の注目点になってきた。しかし、シンガポールで1日まで開かれた今年の会議では中国の存在感が相対的に薄まり、アジア地域を巡る米欧間の緊張という新たな断層が露呈した。
ヘグセス米国防長官は5月31日にシャングリラで行った講演で、中国は「差し迫った」脅威だと警告する一方、軍事予算を拡大している欧州諸国に対して欧州自体の安全保障に集中するよう求める姿勢を鮮明に打ち出した。「われわれは欧州の投資の圧倒的な比重が欧州大陸に向けられることを強く望んでいる(中略)そうすれば、われわれは欧州でパートナーとしての関係を継続しつつ、アジアでもインド太平洋国家としての比較優位を活かし、パートナー諸国を支援できる」と主張した。
ヘグセス氏は中国の董軍国防相が会議への出席を見送ったことにも言及した。中国は国防相に代わり、学者から成る下位レベルの代表団を派遣した。
今年のアジア安全保障会議でもう1つ注目を集めたのは、核保有国であるインドとパキスタンの軍人代表団の動きだ。両国は係争地のカシミール地方を巡って軍事衝突し、5月10日に停戦したばかりで、軍服に勲章で身を固めた両国代表団はシャングリラホテルの廊下や会議室であからさまに接触を避けていた。
アジアへの関与については、少なくとも一部の欧州諸国が米国の呼びかけに従わない姿勢を示した。こうした国々はアジアと欧州の両地域に関与し続ける意向を表明し、両地域間の関係の深さ、貿易の重要性、紛争がグローバルな性質を帯びている点など強調した。
欧州連合(EU)の外相にあたるカラス外交安全保障上級代表は「われわれが(欧州で)活動を強化しているのは良いことだが、私が強調したいのは、欧州の安全保障と太平洋地域の安全保障は非常に密接に関連しているということだ」と言及。「中国に懸念を抱くなら、ロシアにも抱くべきだ」と述べ、ウクライナ戦争における中国の対ロシア支援と、ロシアによる北朝鮮兵士の配備は重大だと指摘した。
<フランスとアジアの関係>
フランスのマクロン大統領は、フランスの海外領土であるニューカレドニアや仏領ポリネシアに言及するとともに、地域一帯に8000人以上の兵士を配備していることを挙げ、フランスはインド太平洋で勢力を維持していると主張した。
5月30日に開いた記者会見では「われわれは中国でも米国でもないし、どちらにも依存したくない」と述べ、米中いずれかの選択を迫られることのない欧州とアジアの「第三の道」同盟構想を打ち出した。その上で「可能な限り両国と協力したい。われわれは国民と世界秩序の成長・繁栄・安定のために協力できるし、この地域の多くの国や人々も同じように考えていると思う」と語った。
実際に軍事専門家らは、欧州のアジア太平洋地域でのプレゼンスと野心はそう簡単には変わらないと見ている。軍の配備は数カ月単位ではなく数十年単位で立案されるほか、両地域の商業、軍事関係には数十年の歴史がある。
6月後半に英国の空母がシンガポールに寄港する予定だが、これは2017年に当時のジョンソン英外相が初めて言及した、南シナ海における「航行の自由」を支持する英国の姿勢を強調する計画の一環だ。またこの英空母寄港は54年前に結ばれたシンガポール、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランドと英国の軍事同盟「5カ国防衛取り決め(FPDA)」の一部でもある。
英国とオーストラリアの関係も米英豪の安全保障協力「AUKUS(オーカス)」で強化されており、この枠組みに基づいて今後英国の潜水艦が西オーストラリアに寄港する可能性もある。
一方、シンガポールはフランスに200人の部隊を駐留させ、軽戦闘機12機を運用している。英国はブルネイにジャングルの訓練キャンプを設け、ヘリコプターを配備しており、1200人規模のグルカ兵大隊も駐留していることが、国際戦略研究所(IISS)の資料から分かる。
IISSは先月の報告書で、欧州の防衛企業は長年にわたってアジア諸国と関係を築き、拡大してきたと強調。サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)との競争にさらされながらも、取り組みを続けたと説明した。
IISSは「エアバス、蘭ダーメン、仏ナバル・グループ、仏タレスなどの欧州企業は東南アジアに長年にわたるプレゼンスを持ち、過去10年間でイタリアのフィンカンティエリやスウェーデンのサーブなど他の欧州企業も市場に参入した」と指摘している。
サーブは現在、米ロッキード・マーチンのF-16に競り勝ち、米国の同盟国であるタイに「グリペン」戦闘機を供給する契約が獲得間近とみられている。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、アジアの国防支出は2024年までの10年間に46%増加して6290億ドルに達した。
一方、少なくともフィンランドの政府関係者はヘグセス氏の発言に同調を示した。ロシアとの長い国境を有するフィンランドにとってはインド太平洋地域よりもモスクワの脅威の方がはるかに差し迫っているためだ。
フィンランドのハッカネン国防相はロイターに「欧州の防衛がしっかりしていればこそ、他のことにリソースを割く余裕も出てくる。今は全欧州諸国が欧州の防衛に主な焦点を当てるべき時で、そうすれば米国はインド太平洋地域でより大きな役割を分担できるようになる」と訴えた。