ニュース速報
ワールド

アングル:米トランプ政権、低所得移民に1人当たり最高2億5900万円の罰金 滞在日数により計算

2025年05月21日(水)15時29分

米国に住むウェンディ・オルティスさん(32、写真左)のところに、移民当局から「不法滞在のため罰金を支払うように」と命じる通知がきた。だが彼女を本当に震え上がらせたのは、180万ドル(約2億5900万円)という金額だった。右は6歳の息子アクセルさん。5月17日、同州の自宅で撮影(2025年 ロイター/Eduardo Munoz)

Ted Hesson Kristina Cooke

[ワシントン 20日 ロイター] - 米国に住むウェンディ・オルティスさん(32)のところに、移民当局から「不法滞在のため罰金を支払うように」と命じる通知がきた。だが彼女を本当に震え上がらせたのは、180万ドル(約2億5900万円)という金額だった。

オルティスさんはペンシルベニア州の食肉加工工場で働いている。暴力的な元パートナーとギャングからの脅迫を逃れるためエルサルバドルを離れ、米国に渡ってから約10年が経過しているという。時給13ドルの賃金で、自閉症を抱える米国籍の息子(6)との生活費をかろうじて賄っている状態だ。

「不公平だ」と彼女は嘆いた。「こんな金額、どこで手に入るというのか」

トランプ米大統領はここ数週間、強制送還命令に従わず米国に残っている移民に対して罰金を科す計画の実行に着手。政府高官によると、約4500人の移民に対し総額5億ドルを超える罰金の通告が出たという。

ロイターが全米の移民弁護士8人に取材したところ、顧客の中には数千ドルから180万ドル超の罰金を受けた人もいた。

通知は、罰金を免除すべき理由を宣誓書と証拠を添えて30日以内に書面で提出するよう求めている。

この高額の罰金はトランプ氏が推進する「自主退去」政策の一環であり、米国内の不法移民に自ら帰国させるのが狙いだ。

ロイターは4月、強制送還命令に従わなかった移民には1日当たり998ドル(約1万4000円)の罰金が科されると報じた。過去5年分まで遡及請求される可能性があり、その場合の上限は180万ドルになる。支払いが不可能な移民には財産差し押さえも検討されているという。

ただ、罰金の徴収および差し押さえの具体的な手続きについては、現時点では不明だ。

<移民弁護士らの困惑と反発>

ロイターの取材で、罰金は移民・税関捜査局(ICE)が請求し、処理および徴収に対応するのは税関・国境取締局(CBP)であることが分かった。

関係者によると、CBPは差し押さえに向け複雑な手続きの整理を進めているという。

国土安全保障省(DHS)はコメントを控えた。マクラフリン報道官は4月の声明で「不法滞在者は即刻、自主的に出国すべきだ」と述べていた。

この罰金制度は1996年制定の法律に基づくもので、第1期トランプ政権時の2018年に初めて施行された。対象は、裁判所から強制送還命令を受けた約140万人に上る。

トランプ政権は1期目に、教会へ避難していた9人の移民に対する数十万ドル規模の罰金について、法的異議の申し立てを受けて撤回した。ただそれよりも少額の罰金については請求を継続した。次のバイデン政権は2021年にこれらの罰金請求を全て撤回している。

ニューヨーク市の移民弁護士であるロバート・スコット氏は、顧客の1人が罰金180万ドルを科されたことに困惑したと語った。この顧客は、米国に25年間住んでいる低所得のメキシコ人女性だ。

「最初は偽物かと思った」とスコット弁護士は言う。「こんな通知を見たのは初めてだ」

同弁護士によるとこの女性は2013年に退去の最終命令を受けていたが、その事実を認識していなかった。命令の再審査を昨年申し立てたが、まだ決定は出ていないという。

「彼女は逃げ隠れしていたわけではない。なぜこのような人を選んで罰金を科すのか不可解だ。偶然なのか、それとも標的にしやすい対象だったのか」と同弁護士は述べた。

<救済を求めた後、標的に>

オルティスさんは2015年にエルサルバドルから米国へ入国した。迫害の恐れがあるとして庇護申請を行うよう勧められたが、2018年に出廷しなかったことから強制送還命令を受けた。本人は裁判所からの通知を受け取っていなかったと主張している。

オルティスさんの担当弁護士は今年1月8日、米政府に対し人道的救済措置を求めた。エルサルバドルに戻れば危険に直面し、自閉症の息子も適切な支援を受けられないというのが理由で、「検察の裁量権」と政府による再審理および命令の却下を要請した。

そのわずか12日後にトランプ氏が大統領に返り咲き、移民取り締まりの強化に乗り出した。

オルティスさんの代理人であるロジーナ・スタンバウ弁護士は、30日間の期限延長を申請し、裁判で罰金に異議を唱える方法を検討している。

「オルティスさんは自閉症児の母親で、犯罪歴もなく、当局はすべての身元情報を把握している。それでもこのような対応をするとは全く理不尽だ」と同弁護士は語った。

罰金命令を受けた移民の中には、米国市民の配偶者で、合法的な滞在資格の取得を目指している人も含まれていたという。

ニューヨークに住む米国市民のロサさんは、ホンジュラス人の夫に5000ドルの罰金が科されたと明かした。夫は2018年に自主退去を認められたが、ロサさんが子宮がんと診断されたため出国できなかったという。

「一連の手続きのため、既に莫大な費用がかかっている」とロサさんは話した。「次から次へと問題が降りかかってくる」

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀、債券市場会合を終了 26年4月以降の買入計画

ワールド

再送-安定した価格でコメ供給、備蓄米の随意契約を活

ビジネス

モルガンS、米主要資産に強気に転じる ドル安は継続

ワールド

ウクライナ、EUに対ロシア制裁強化案提示へ 米に代
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 3
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到した理由とは?
  • 4
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 5
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 6
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 7
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 8
    【裏切りの結婚式前夜】ハワイにひとりで飛んだ花嫁.…
  • 9
    トランプは日本を簡単な交渉相手だと思っているが...…
  • 10
    小売最大手ウォルマートの「関税値上げ」表明にトラ…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 5
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 9
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 10
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 10
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中