ニュース速報
ワールド

アングル:「花見に来日」のロシア人急増、ルーブル高や簡素なビザ手続きが追い風

2025年03月21日(金)18時55分

 3月20日、暖かいコートと毛糸の帽子に身を包んだ何百人もの人々が、まだ寒いモスクワの空の下、整然と列を作っている=写真。モスクワの日本大使館前で4日撮影(2025年 ロイター/Maxim Shemetov)

Lev Sergeev Dmitriy Turlyun

[モスクワ 20日 ロイター] - 暖かいコートと毛糸の帽子に身を包んだ何百人もの人々が、まだ寒いモスクワの空の下、整然と列を作っている。セレブや特別な展覧会を見に来たわけではない。求めているのは日本のビザ(査証)だ。

背景には、大半の欧州諸国がロシアとの直行便を禁止していることとや、日本ビザの申請手数料がロシア人に対しては無料なことがある。ルーブル高と、ウクライナ戦争への多額の政府支出がもたらした景気回復による実質賃金の増加を最大限に活用しようと、ロシア国民は欧州に代わる新たな旅行先を開拓している。

日本の航空会社はもうロシアとの直行便を運航していないが、モスクワの駐ロシア日本大使館によると、乗り継ぎ便の増加に伴ってロシアからの訪日客は増加している。

ロシア観光産業連合会のドミトリー・ゴリン副会長はロイターに対し、日本で休暇を過ごすロシア人の数は昨年の約10万人から今年は倍増するだろうと語った。

ゴリン氏は、春に日本で桜の花見をするのは人気が高いため、大使館で行列ができるのは無理もないとして「最も重要なのは複雑なビザ手続きがなく、手ごろな航空便があることだ」と説明した。

日本は昨年11月、ロシアからの訪問者に対し、滞在中のホテル代を支払ったことを証明する書類の事前提出義務を停止した。 往復航空券は中国での乗り継ぎ便が多く、4万ルーブル(477.64ドル)程度からあるとゴリン氏は言う。

モスクワの日本大使館で順番待ちをしながらロイターの取材に応じたエリザベータさんは、ビザ取得手続きが簡素なため航空券の購入を決意したと語った。「ずっと行きたいと思っていた。最近では欧州に行くのは難しくなった。日本へのビザは4、5日で取得できるので行くことにした」

<長年の夢>

2022年2月にロシアがウクライナに侵攻する前は毎年、何百万人ものロシア人が欧州を訪れていた。

今は欧州の領空がほとんどロシアの航空会社に閉ざされているため、間接的なルートを経由する必要があり、欧州旅行は高額になった。ゴリン氏によると、現在の欧州訪問者数は年間約30万人で、2019年の水準を90%ほど下回っている。

ロシア経済は制裁の影響で一時的にマイナス成長に陥ったが、その後回復。航空旅行を含む消費者需要の上昇が過熱状態に拍車をかけている。

今年に入って米国とロシアの関係改善がウクライナ戦争の何らかの解決につながるとの期待からルーブルが急上昇したため、ロシア国民は日本や他地域を訪れやすくなった。

主な海外旅行先は、ロシアに制裁を課していない国々だ。

観光比較サイトsletat.ruの国際プロジェクト責任者、リュボーフィ・ボロニナ氏は「ルーブル高はツアー価格と、海外旅行に対する消費者の関心に直接影響する」と語る。観光客が旅行先で何をするかによっては、10%から30%の節約ができる状態になっているという。

可処分所得の増加とツアー価格の低下が重なり、一部の人々は日本訪問の絶好のタイミングとなった。

日本大使館で並んでいたニキータさんは訪日旅行が「子どもの頃からの長年の夢だった」と明かした。その上で「今では旅行に行けるお金ができたので実行を決めた。それに価格も下がったし」と話した。

唯一のハードルは長い列に並ぶことだ。だが、行列にいたアントンさんに時間切れになって今日中に申請書を提出できない心配はないかと尋ねると「それなら明日来る」とあっさり答えた。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

赤沢氏「合意の結論に直ちに結びつかず」、対米交渉を

ワールド

ロサンゼルスで移民の抗議活動、トランプ政権が州兵派

ワールド

コロンビア大統領選の候補者、銃撃される 容疑者逮捕

ビジネス

CPIや通商・財政政策に注目、最高値視野=今週の米
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 4
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 5
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 6
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 7
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 8
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 9
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 10
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中