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アングル:美容に観光、韓国「ソフトパワー」に政治混乱の影

2024年12月13日(金)14時13分

 12月12日、美容整形から旅行代理店、ホテルチェーンまで、韓国では外国人観光客を重要な収入源とする接客サービス業界全体で、足元の政治危機が長期化した場合に生じる悪影響に警戒感が広がっている。写真は同日、ソウルで尹錫悦大統領の弾劾を求めて抗議活動する人々(2024年 ロイター/Kim Soo-hyeon)

Hyunjoo Jin Lisa Barrington Heekyong Yang

[ソウル 12日 ロイター] - 美容整形から旅行代理店、ホテルチェーンまで、韓国では外国人観光客を重要な収入源とする接客サービス業界全体で、足元の政治危機が長期化した場合に生じる悪影響に警戒感が広がっている。尹錫悦大統領が3日に「非常戒厳」を宣布して以降、旅行をキャンセルする動きが見え始めたからだ。

2023年に韓国の旅行・観光産業が生み出した金額は84兆7000億ウォン(591億ドル)と、国内総生産(GDP)の3.8%前後を占めた。16年の大統領弾劾や断続的に訪れる北朝鮮との緊張といった過去の逆風にも、この業界は踏ん張ってきた。

しかし、ロイターが取材した業界関係者や関係省庁らによると、軍が関与した今回の政治危機は深刻で、同国への観光旅行や出張を妨げ、10月時点でようやく訪韓外国人がコロナ禍前の97%と全面的な回復が近づきつつある業界の足を引っ張りかねないという。

旅行需要の落ち込みを巡って業界幹部らと協議した呉世勲ソウル市長は11日、「ソウルの安全に関する問題のせいで旅行産業が冷や水を浴びせられる懸念がある」と語った。「ソウル訪問を中止したり、滞在日数を短縮したりする事例が増えつつある」とした上で、英語と中国語、日本語で「ソウルは安全です」と訴えた。

国会で大統領弾劾訴追案が否決されたことを受けて大規模な抗議運動は続いているものの、ソウルの日常風景や旅行者の行動は普段と変わっていない。複数の専門家からは、韓国の統治機構は「抑制と均衡」の機能が保たれていると評価する声も聞かれる。

それでも旅行業界や接客業界の関係者の話では、一部の外国人は予約をキャンセルし、状況が変わった場合に予約を取り消せるかどうかの問い合わせも出てきている。

「フェアモント」や「ソフィテル」といったブランドでホテルチェーンを展開するアコーホテルズは、今月3日以降のキャンセル率が11月に比べて5%ほど高まったと説明した。

韓国ツーリズム・スタートアップ協会は6日、来年前半の予約件数が既に急減していると発表した。

以前は満室状態だったソウルのホテルは一部でキャンセルによる空室が発生し、一部は宿泊料引き下げや特別料金設定などで予約取り込みを図っている、とインバウンド専門旅行代理店の1社が明かした。

ソウル屈指の繁華街、江南(カンナム)地区にある美容整形クリニックも、戒厳令以降に外国人の患者からのキャンセルがあったという。「現段階では心配していない。しかしこの状況が続くようなら、外国人の来訪数に影響が出てくる」という。

韓国は医療・美容整形のツアー先として世界で最も人気がある。

<ソフトパワーに痛手>

韓国の「国家ブランド」推進を担う政府機関の責任者は、これまで固有の文化や経済的成功などのおかげで改善してきたブランドにとっても、今の政治危機は大打撃になる恐れがあると不安を漏らす。

韓国のドラマや音楽、美容は「韓流」として一躍世界的に有名な存在となり、安全だという評判や、サムスンなどの国際的ブランドとともに同国のいわゆるソフトパワーの重要部分を形成し、政府が外国人旅行者を呼び込む力になっている。

19年に年間3000万人だった外国人旅行者を27年までにほぼ倍増するというのが政府の目標だ。

そうした戦略の一環として重視されているのは、「MICE」と呼ばれる国際会議や展示会などのイベントを含めた企業・団体・国際機関などを対象とする旅行需要。韓国MICE協会の事務局長は、政治危機が来年初めまで持ち越されれば、これらの需要にも響きかねないと警鐘を鳴らした。

国会では14日に2回目の大統領弾劾訴追案が採決される予定。

リスクコンサルティングを手がけるコントロール・リスクス・グループのディレクター、アンドルー・ギルホルム氏は「韓国がこの差し迫った未曾有の局面を乗り切り、新たな選挙への明確な道筋につなげられれば、それほど悪影響にはならないと思う」と述べた。これらの問題への解決能力を証明することで、長期的にはかえって韓国の評価が上向くかもしれないとの見方を示した。

中国四川省成都市の旅行代理店創業者スー・シュー氏も、韓国の旅行需要について楽観的だ。「どこで混乱が起きるかに関係なく、旅行に行かない人は出てくる」と語った。

韓国を訪れる外国人旅行者で最も多いのは中国人。次いで日本人、米国人の順となっている。

ロイター
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