ニュース速報
ワールド

アングル:「歴史的な損害に補償を」、鉱山資源開発に伴う犠牲に声上げるアフリカ女性

2024年11月17日(日)07時54分

 10月13日、 アゼルバイジャンの首都バクーで開催中の第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)には、数万人の出席者が集まった。コンゴ南部の銅コバルト鉱山で2016年6月撮影(2024年 ロイター/Kenny Katombe)

Kim Harrisberg Jack Graham

[ヨハネスブルク/バクー 13日 トムソン・ロイター財団] - アゼルバイジャンの首都バクーで開催中の第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)には、数万人の出席者が集まった。その一方で、10月にはセネガルで「反COP」会合が開催され、COP会議に批判的な120人を超えるアフリカの女性活動家らが参加していた。

この女性活動家たちは、女性気候会議(WCA)のメンバー。鉱山事業が歴史的に残した環境・社会面での損害に対する補償を求め、世界がクリーン・エネルギーに移行するために必要な重要鉱物の採掘について発言権を強めたいとしている。

セネガルで活動するWCAメンバーのウームー・クーリバリー氏はトムソン・ロイター財団に対し、「エネルギー移行には賛成だ。しかしそれが鉱山での児童労働を伴うなら反対するし、女性が健康を害し、搾取されるのであれば、やはり反対する」と語った。

10月に開催された「COPに抵抗するアフリカ人民」会合で、活動家たちは、ブルキナファソの金鉱山の新規開発で退去させられたコミュニティーから、ギニアのアルミニウム鉱山による水質汚染に至るまで、鉱山事業による有害な影響について情報を交換した。

一方、バクーでは13日、重要鉱産資源に関する専門家パネルの結論を受けて、グテレス国連事務総長が演説を行った。

「欲深い者の大群が貧者を押しつぶすという過去の誤りが繰り返されるのを、私たちはあまりに多く目にしてきた」とグテレス氏は述べた。

「資源に殺到し、コミュニティーを搾取し、権利を踏みにじり、環境をないがしろにするという状況がある。開発途上国が価値連鎖の底辺に押しやられ、その資源の上に他国は富を築いている」と続けた。

専門家パネルが9月に発表したレポートは、透明性確保の枠組みを創出し、廃鉱による負の遺産に対処する基金を設けるなど、鉱業セクターをより持続可能なものにするよう勧告している。

グテレス氏はこのレポートの勧告について、「コミュニティーに決定権を与え、説明責任を確立し、クリーン・エネルギーが公正で回復力を備えた成長を牽引(けんいん)することを確保する」狙いがあると述べた。

コバルトやリチウム、銅などエネルギー移行に必要な鉱産資源に関して、アフリカは世界の埋蔵量の40%以上を占める。いずれも、電気自動車や太陽光発電パネルなど「グリーンな」テクノロジーには不可欠な資源だ。

適切な政策に基づき、こうした資源の加工・製造がもっとアフリカ大陸内で行われるようにすれば、アフリカの域内総生産(GDP)は少なくとも年240億ドル(3兆7500億円)増加し、230万人の雇用が生まれると、市民社会組織「パブリッシュ・ホワット・ユー・ペイ」は調査研究で指摘している。

COP29が「今後どうすべきか」を議論する一方で、アフリカの女性活動家たちが求めているのは、国際的な鉱業企業が鉱産資源で富を築く一方で、地元の住民にとっては環境破壊以外ほとんど何も残らないという歴史を繰り返さないための行動だ。

アフリカの活動家による反COP会合とWCAは、COPではアフリカの声がほぼ排除されていると主張する。「グローバル・ノース」と呼ばれる先進諸国の政府・企業は、必要に応じて気候変動対応資金を提供するといったCOPにおける公約を守っていないという。

WCAでは過去の損失を金額ベースで数値化する取り組みを進めており、汚染原因となった企業に補償を求める訴訟を準備している。

リベリアからWCAに参加しているアビエ・フリーマン氏は、声明の中で「汚染当事者が私たちのコミュニティーにもたらした問題について、彼らと話をする必要がある」と述べた。

<「アフリカの肺」>

WCAは昨年発表した宣言の中で、「世界の有力国の首脳は、自国の汚い産業に味方している」と批判し、コンゴ盆地における石油掘削と鉱産資源採掘のような資源採取がもたらす影響を強調した。

コンゴ盆地はコバルトやコルタンなどの鉱物資源が非常に豊富だが、同時に「アフリカの肺」と呼ばれることもある。この地域の森林は、世界最大の炭素吸収源となっているからだ。

コンゴ民主共和国で初の女性首相となったジュディット・スミヌワ・トゥルカ首相は、複数の報告が、エネルギー移行に必要なものを含む鉱産資源の集中的な開発と同国内での内戦との関連を指摘していると述べている。

スミヌワ首相はCOP29のイベントにおいて、「エネルギー移行を公平かつ公正なものにするには、平和と開発に貢献するような基盤に立脚する必要がある」と語った。

これは、資源採取の場となる諸国とその地元コミュニティーがあらゆる施策・投資から利益を得るという意味だ、とスミヌワ氏は続けた。

アフリカのエコフェミニスト連携組織である「ウォーミン」でディレクターを務めるサマンサ・ハーグリーブス氏は、太陽光発電パネルや蓄電池などグリーン・エネルギー機器が必要とする資源は、結果的に、コバルトやリチウムといった鉱物の採掘を大幅に増やすことになる、と語る。

ハーグリーブズ氏は、アフリカは統合された地域ブロックとして必須鉱物の採掘・取引をコントロールすべきだ、と主張する。鉱業プロジェクトが原因となり、女性が公共サービスや水、エネルギーを利用しにくくなる例は多く、また性的暴力の被害も増えるからだ。

国連貿易開発会議(UNCTAD)は、国連専門家パネルによるレポートにも参加しており、地元コミュニティーが鉱産資源開発から得る利益の拡大や、国内加工などの「高付加価値」産業の構築を支援するために各国と協力していく計画だ。

UNCTDの国際貿易・コモディティ部門でディレクターを務めるルツマリア・デラモラ氏は、鉱業セクターでは女性の給与が低く、また鉱山での仕事を見つけるために男性がコミュニティーを離れざるをえない場合には1人で家族を支えなければならないことも多い、と話す。

デラモラ氏はCOP29の会場でトムソン・ロイター財団の取材に応じ、「エネルギー移行に不可欠な鉱産資源の時代には、これまで見られたものと同じモデルが再現されないよう配慮する必要がある」と語った。

ただしデラモラ氏は、そのためには、各国政府・企業に対して拘束力のある法規制枠組みの整備を含め、時間がかかるだろうと予測する。

「手始めは、しっかりした評価を行うことだと思う。私たちは今まさにその段階にある」とデラモラ氏は言う。

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英国王夫妻、トランプ米大統領夫妻をウィンザー城で出

ビジネス

三井住友FG、印イエス銀株の取得を完了 持分24.

ビジネス

ドイツ銀、2026年の金価格予想を4000ドルに引

ワールド

習国家主席のAPEC出席を協議へ、韓国外相が訪中
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中