ニュース速報
ワールド

情報BOX:関税引き上げから不法移民送還まで、トランプ氏「2期目」の公約

2024年05月24日(金)13時51分

5月21日、トランプ前米大統領は、今年11月の大統領選で返り咲いた場合に数百万人の移民を強制送還し、高額な関税で世界貿易を再編成するとともに、ホワイトハウスを忠実な支持者で固める計画だ。写真は1日、ミシガン州フリーランドで選挙集会に出席したトランプ氏(2024年 ロイター/Brendan McDermid)

James Oliphant Gram Slattery

[ワシントン 21日 ロイター] - トランプ前米大統領は、今年11月の大統領選で返り咲いた場合に数百万人の移民を強制送還し、高額な関税で世界貿易を再編成するとともに、ホワイトハウスを忠実な支持者で固める計画だ。

同氏が公約に掲げた政策の一部は以下の通り。

◎貿易

トランプ氏は、全ての輸入品に10%以上の関税をかける案を示している。貿易赤字を無くすためだとしているが、消費者物価の上昇と世界経済の不安定化を招くとの指摘もある。

同氏はまた、米国からの輸入品に関税をかけている国に対して、より高い関税をかける権限を自身が持つべきだとも述べている。一部の輸入車には200%の関税を課すと脅している。

特に標的にしているのは中国で、電子機器、鉄鋼、医薬品など中国からの輸入を4年間で段階的に削減することを提案。中国企業がエネルギーやハイテク分野で米国のインフラ所有を禁止しようとしている。

◎連邦政府職員

トランプ氏は、数千人の連邦政府職員を再分類して解雇できるようにする大統領令を通じて「ディープステート」の撲滅を図ろうとしている。同氏は、密かに自分たちの目的を達成しようとしている連邦政府のキャリア職員らを想定してディープステートと呼んでいる。

これは法廷で争われる可能性が高い。トランプ氏は、国家安全保障に携わる腐敗した人々を解雇し、政敵を「根絶やしにする」と宣言している。

トランプ氏は、全ての連邦政府職員に、自らが作り出す新たな公務員試験への合格を義務付けると述べているが、そのための実際的な権限は限られている。

同氏の側近も、政策の実行に当たる公務員志願者を吟味するだろう。トランプ氏は、2020年の選挙が不正選挙だったという自身の信念に、公務員は従わなければならないと示唆している。

トランプ氏は、通常は法律で保護されている連邦政府の内部告発者を弾圧し、米情報機関を「監視」する独立機関を設立するだろう。

◎政敵の捜査

トランプ氏は何度か、連邦の法執行機関を使って政敵を捜査すると誓ったことがある。

バイデン大統領を調査するため、特別検察官の任命を検討するとも述べているが、調査の根拠は明示していない。

トランプ氏はまた、一部の地方検事が違憲の選択的強制執行を行っているため、司法省が調査するとも述べている。

自身の命令に従わない検事の解任を検討するとも話しており、これは、連邦法執行機関の独立という長年の米国の方針との決別を意味する。

トランプ氏の盟友らは、司法省の独立性を削ぎ、同省を大統領に忠実な政治任用者だらけにする計画を練っている。

◎エネルギー

トランプ氏は、掘削許可プロセスを緩和し、天然ガスパイプラインの新設を奨励することで、化石燃料の生産量を増やすと宣言している。

また、世界的な温室効果ガス排出量削減の枠組みであるパリ協定から再び離脱し、原子力エネルギーの増産を支持すると述べている。バイデン大統領が導入した電気自動車(EV)への移行義務付けや、自動車による排出量削減を目的としたその他の政策も撤回するだろう。

◎経済

トランプ氏は、雇用創出を制限していると自身が考える連邦規制の削減を約束している。大統領在任中の2017年に署名した広範な減税措置の継続も約束。同氏の経済チームは、1期目に実施した個人・法人減税の拡大について議論している。同氏は、米連邦準備理事会(FRB)に利下げを迫るだろうとも述べた。

◎移民政策

トランプ氏は、不法移民を標的とした第1期の政策を復活させ、バイデン氏の親移民政策を後退させて抜本的な新規制を進めると宣言した。

メキシコ国境における亡命を制限し、米国史上最大の強制送還に乗り出すと公約している。しかし、これは法的正当性が問われ、議会民主党からの反対にも遭うだろう。

同氏は、目的達成のために州兵や、必要であれば連邦軍を動員すると述べており、強制送還のために収容所を設置する可能性も排除していない。

移民から生まれた子どもが自動的に市民権を得られる制度を廃止するとも述べているが、これは長年続いてきた合衆国憲法の解釈に反する動きだ。

◎中絶

連邦最高裁判事のうち、人工妊娠中絶の権利は憲法で守られているとの判断を覆した多数派に属する3人は、トランプ氏が任命した人物だ。同氏は今後も中絶制限を支持する連邦判事を任命し続けるだろう。

同時に同氏は、連邦政府による中絶禁止は不要であり、この問題は州レベルで解決されるべきであるとも述べている。共和党の一部で支持されている妊娠6週以降の中絶禁止は厳しすぎるとし、レイプや近親相姦、母体の健康を考慮した例外規定を設けるべきだと主張。また、アリゾナ州で裁判所が認めたさらに厳しい禁止令にも反対を表明している。

とはいえトランプ氏は、各州が選択すれば、女性の妊娠を監視し、許可された期間以降に中絶手術を受けた場合は起訴することができるとも述べている。

◎外交

トランプ氏は、ロシアとの戦争を巡る米国のウクライナ支援に批判的であり、当選すれば24時間以内に戦争を終結させることができると述べている。ただ、その方法は示していない。

また、米国は北大西洋条約機構(NATO)の「目的と使命」を根本的に見直すとも述べている。具体的な政策提案はほとんど行っていないが、昨年のロイターのインタビューでは、ウクライナは和平合意のために領土をある程度割譲する必要があるかもしれないと語っている。

トランプ氏はウクライナに対する610億ドルの支援策に数カ月間反対し、共和党議員の一部も反対した。議会は4月末、ついに支援策を承認し、トランプ氏はそれ以来、ウクライナの安全保障は米国の重要な国益であると示唆している。

トランプ氏は、イスラム組織ハマスと戦うイスラエルを支持する一方、ネタニヤフ首相の初期対応を批判している。また選挙戦では、麻薬カルテルと戦うためにメキシコに軍隊を派遣することも提案している。

◎教育

トランプ氏は、大学に「米国の伝統と西洋文明を守る」ことを義務づけ、多様性プログラムを廃止すると公約した。また、人種差別を行った学校に対する公民権訴訟を司法省に指示すると述べた。

幼稚園から高校卒業までの教育期間については、保護者が公的資金を私的または宗教的な教育に使えるようにするプログラムを支持するとしている。

◎犯罪

トランプ氏は、人身売買や麻薬密売を行う犯罪者に死刑を科すと述べている。また、小売店で略奪を行った者はその場で射殺する可能性も示唆している。

米国の都市で凶悪犯罪が減少しているという連邦統計については、信じられないと発言。また、2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件に関連して有罪判決を受けた者全員の恩赦を検討すると述べている。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送-イスラエル、ガザ南部で軍事活動を一時停止 支

ワールド

中国は台湾「排除」を国家の大義と認識、頼総統が士官

ワールド

米候補者討論会でマイク消音活用、主催CNNが方針 

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    FRBの利下げ開始は後ずれしない~円安局面は終焉へ~

  • 3

    顔も服も「若かりし頃のマドンナ」そのもの...マドンナの娘ローデス・レオン、驚きのボディコン姿

  • 4

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開する…

  • 5

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 6

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 7

    なぜ日本語は漢字を捨てなかったのか?...『万葉集』…

  • 8

    メーガン妃「ご愛用ブランド」がイギリス王室で愛さ…

  • 9

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 10

    サメに脚をかまれた16歳少年の痛々しい傷跡...素手で…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 5

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 6

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 7

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 8

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 9

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 10

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中