ニュース速報

ワールド

アングル:自己恩赦見送ったトランプ氏、今後の民事・刑事責任は

2021年01月24日(日)11時23分

1月21日、トランプ前米大統領は任期最終日に多数の恩赦を与えたが、自身や子供たち、私的な顧問弁護士のジュリアーニ元ニューヨーク市長は含めなかった。写真は20日、メリーランド州の空軍基地で演説するトランプ氏(2021年 ロイター/Carlos Barria)

[21日 ロイター] - トランプ前米大統領は任期最終日に多数の恩赦を与えたが、自身や子供たち、私的な顧問弁護士のジュリアーニ元ニューヨーク市長は含めなかった。トランプ氏の側近らは、トランプ氏が自分に恩赦を与えるという異例の措置について、密かに議論したと話していた。

今回の最終的な決断が、退任して一般人に戻ったトランプ氏に今後、問われる可能性のある民事的、刑事的責任に対し、どのように影響し得るのかまとめた。

<トランプ氏決断の理由、考えられる事柄>

大統領恩赦で可能になることは、とても多いわけではない。連邦機関である司法省の訴追は停止され得るが、州レベルの訴追は可能だ。ニューヨーク州マンハッタン地区検察のサイラス・バンス検事が手掛けているトランプ氏の事業に関する脱税疑惑などへの刑事捜査は、なお続く。

バンス氏は、今のところだれも刑事訴追していない。トランプ氏は、この捜査が政治的動機によると主張してきた。

法律事務所バックリーの弁護士で、以前、マンハッタン地区検察でバンス氏の補佐だったダニエル・アロンソ氏の見立てでは、トランプ氏が自己恩赦していたら、州レベルでの訴追を求める声が高まるだけだったという。

ロヨラ・ロー・スクールのジェシカ・レビンソン教授によると、自己恩赦していたら、トランプ氏の支持者たちによる今月6日の連邦議事堂襲撃での死者遺族などが、民事訴訟を起こす動きに油を注いでいた可能性もある。事件の直前にトランプ氏はホワイトハウス近くでの集会で群衆を繰り返しあおっていた。

レビンソン氏は、少なくとも罪を認めるかという意味で、トランプ氏の自分や家族への恩赦は、ほとんど「挑発」行為になると指摘。「来て捕まえてみろ」と言っていることになり、その通りに訴訟と捜査を加速させていたとみる。

自己恩赦が裁判所で審理された場合、法廷が支持するかについては、学者たちはかなり懐疑的だ。「だれも自分の件を自分で裁いてはならない」との基本原則に背くとみる専門家は多い。

自己恩赦していたら、上院の共和党議員も怒っていたかもしれない。下院はトランプ氏の演説が議事堂襲撃をあおったとして弾劾訴追を可決しており、上院では間もなく弾劾裁判が開かれるからだ。弾劾裁判の結果によっては、トランプ氏は将来公職に就けなくなる。

<ジュリアーニ氏の恩赦なら、トランプ氏の助けになっていたか>

法律専門家によると、助けになっていた可能性も高いが、判断は難しい。

ジュリアーニ氏はトランプ氏のために大統領選の有力候補だったバイデン氏やその子息のスキャンダルを探し、トランプ氏の代理人としてウクライナ疑惑に関わった。トランプ氏のこうした対応は、2019年12月の下院での弾劾訴追につながった。だが、20年2月に共和党が多数派だった上院で開かれた弾劾裁判では、無罪とされた。

ロイターが入手した大陪審召喚状によると、ニューヨークの連邦検察は19年11月、犯罪捜査の一環としてジュリアーニ氏への支払い記録の提出を求めていた。召喚状によると、検察が捜査の対象としたのは資金洗浄、通信不正行為、選挙資金の法規違反、偽証、司法妨害、外国代理人登録法の違反だった。

ジュリアーニ氏は、全て否定している。

ジュリアーニ氏への捜査の範囲や程度は不明で、現状で同氏は訴追されていない。同氏がトランプ氏について、検察にとって価値があると思うようなことを知っているのかも明らかにされていない。

ただ、元連邦検事で現在はベンジャミン・N・カードーゾ・ロースクールの教授であるジェシカ・ロス氏によると、ジュリアーニ氏に恩赦が与えられなかったことで、同氏は訴追された場合には検察に協力し、トランプ氏の行為をほのめかす可能性が高くなっているという。「恩赦の可能性がなければ、有罪と服役の可能性は現実味を増すわけで、これが『良きに計らってもらう』ために検察に協力する動機になる」としている。

ロヨラのレビンソン氏は、バイデン氏の大統領選勝利を無効にするためにジュリアーニ氏がトランプ氏の代理で起こした数多くの訴訟がことごとく負けたことで、同氏は恩赦を与えないことを決めた可能性もあるとみている。

<密かに自己恩赦することも可能だったか>

元検事のアロンソ氏によると、密かに自己恩赦することは可能だ。大統領恩赦は通常、公表される。しかし、合衆国憲法が公表を義務づけているわけではなく、トランプ氏がやろうと思えば、家族や側近、自身に対してさえも予備的な恩赦を密かに出せていたという。

一方で、大統領記録法は大統領決定の文書化を定めているが、実際にそれを強制する仕組みは同法には定められていない。アロンソ氏によると、恩赦が密かに行われていた場合、それが明らかになるのは、恩赦の対象になった人物が最終的に連邦犯罪で訴追され、その弁護のために恩赦されていることを申し出る以外にないかもしれないという。

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾総統「26年は重要な年」、主権断固守り防衛力強

ワールド

再送トランプ氏、シカゴやLAなどから州兵撤退表明 

ビジネス

ビットコイン、2022年以来の年間下落 最高値更新

ワールド

ゼレンスキー氏「ぜい弱な和平合意に署名せず」、新年
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中