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焦点:貿易戦争に発展か、中国がトランプ氏の「本気度」軽視

2018年01月24日(水)17時27分

 1月19日、トランプ米大統領が中国の貿易慣行に対して厳しい措置を講じることを真剣に検討していると、米財界の有力者が同国に警告を発している。だが中国当局者は真に受けておらず、首都北京では危機感がほとんど感じられない。写真はトランプ米大統領夫妻と中国の習近平国家主席夫妻。北京で昨年11月撮影(2018年 ロイター/Jonathan Ernst)

Michael Martina and Kevin Yao

[北京 19日 ロイター] - トランプ米大統領が中国の貿易慣行に対して厳しい措置を講じることを真剣に検討していると、米財界の有力者が同国に警告を発している。だが中国当局者は真に受けておらず、首都北京では危機感がほとんど感じられない。

世界の2大経済大国を支配する貿易ダイナミクスを揺るがすのに必要な経済的代償を、米国政府が支払う気などないと、北京にいる専門家の多くは考えている。

両国の貿易関係を巡る懸案としては、中国からのものも含む鉄鋼・アルミニウムの輸入が米国の国家安全保障を損なっているかを調べる調査のほか、輸入される太陽光パネルに関税をかける可能性、中国による知財侵害への調査がある。

「これは中国に取引を求める脅しかもしれない」と、中国の政府系シンクタンク「中国グローバル化研究センター(CCG)」のHe Weiwen上級研究員は話す。

全てとは言わないまでも、こうした調査結果の大半は結論が間近と見られている。トランプ氏は17日、ロイターとのインタビューで、1974年の通商法301条に基づき、知財侵害調査の結果次第では、中国に対して「巨額の罰金」を科すことを検討していると警告していた。

米中間を隔てるこうした認識のギャップは、通商問題を巡る協議が減少していることも一因だと指摘する声が、米財界からは聞こえてくる。その結果生じる空白は、両国が貿易を巡って衝突する可能性を高めている。

「特に経済・通商問題を巡る対話は、以前行われていたものの影や殻、形跡程度のものでしかなくなっている」と、中国高官に時間切れになりつつあると警告するため、北京を最近訪れた米財界代表団に同行したある業界筋はこう語る。

この人物によると、超党派から成る米代表団には、ジョージ・W・ブッシュ政権幹部だったスティーブン・ハドリー氏やカルロス・グティエレス氏ら元米高官が大半を占め、7人いる中国政治局常務委員の1人で副首相の汪洋氏や、エコノミストで習近平国家主席の側近である劉鶴氏ら中国指導部幹部と会談したという。

米代表団は、貿易摩擦が「解消されておらず」、まもなく「重大な措置」が取られる可能性が高いとのメッセージを伝えたと、会談に出席したというこの人物は明かした。

「『お互いに負ける』、『そちらの方がより多くを失う』といった反応を耳にした」と、中国側の受け止めの様子についてこう語った。

<貿易戦争からの回復力>

中国で活動する米企業は長い間、外国のテクノロジーを吸収して取って代わろうと意図していると思われる中国政府の政策にいら立ちを覚えてきた。

「問題は、誰が知財を支配し、それをどのように保護するかだ」と、ブッシュ政権で財務次官(国際問題担当)を務め、現在は国際金融協会(IIF)を率いるティム・アダムズ氏は指摘する。

「それに対応するためにメスをどう使うか、また、ハンマーではなくメスを使うことで、実際に行動を変えられるかが問題だ」と同氏は語った。

中国はまず、世界貿易機関(WTO)のルールに違反していないか検討した上で報復に出ると、アダムズ氏は予測。ボーイングの代わりにエアバスのような欧州企業から輸入するというように、米企業に対して次第に圧力を強めていくことが考えられるという。

一方、中国の関税データによると、2017年の対米貿易黒字は2758億1000万ドル(約30.5兆円)に上り、史上最高を記録している。

中国に対して報復措置を取る可能性が高まる中、米企業を買収しようとする中国企業に対して、国家安全保障上の懸念から対策を見直そうとする超党派の動きがワシントンで拡大している。こうした買収の動きの対象となっている米企業は、中国市場から締め出されている業界のものが多い。

だが中国では、米国のそのような努力は裏目に出ることは必至、との見方が大勢を占めている。

「政治的に見て、トランプ政権は中国との経済・貿易関係が緊張することには耐えられない。貿易戦争となれば、中国の方が回復力があるからだ」と、中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は14日伝えている。

中国商務省は米財界代表団や大きな貿易摩擦のリスクについてはコメントしなかったが、中国は自衛のために必要なあらゆる措置を講じるとしている。

<妥協せず>

たとえトランプ政権が米テクノロジー部門の一部が予想しているように「限定的な関税」を課すとしても、モノとサービスの年間貿易額6000億ドル超のうち、わずか数パーセンテージ・ポイントにすぎないだろうと、中国の専門家は指摘している。

だが、輸出に依存する中国の地方政府にとって、米国の脅しは軽視できない問題だ。浙江省のある当局者はロイターに対し、トランプ政権が措置を講じる可能性について懸念を示した。

一方、中央政府は依然として平静を装っている。

「中国当局者が来たるべき米中貿易戦争にナーバスになっているかって。私はそうは思わない」と、貿易を専門とするシンガポール国立大学のWang Jiangyu氏は話す。

中国はこれまで、1992年と95年の場合も含め、米通商法301条による調査を交渉で乗り切ってきた。

中国商務省に近い人物は、301条により関税を課すことは自滅行為であるとし、代わりに交渉することを呼びかける。

「われわれはこの問題にじっくり取り組むべきだ。米国の要求が理にかなっているなら、われわれはWTOに持ち込もうとは思わない」

今回の場合、協議やWTOによる解決に頼ろうとする姿勢は、中国の計算ミスとなる可能性があると、米財界人は指摘する。

中国政府が理解していないのは、トランプ政権が「大真面目」だということだと、前出の米財界代表団メンバーは言う。「彼ら(トランプ政権)は小さなことで手を打つことはしないだろう」

(翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)

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