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焦点:ブレグジットかリグレジットか、EU離脱で今も悩む英国

2016年06月29日(水)08時34分

 6月26日、離脱か残留か、それが問題だ。今もまだ。英国は欧州連合を離脱するという歴史的な決定を下したが、いわゆる「ブレグジット」が早々に実現するという気配はない。写真は離脱を支持する人々。ロンドンで24日撮影(2016年 ロイター/Kevin Coombs)

Guy Faulconbridge

[ロンドン 26日 ロイター] - 離脱か残留か、それが問題だ。今もまだ──。英国は欧州連合を離脱するという歴史的な決定を下したが、いわゆる「ブレグジット」が早々に実現するという気配はない。まったく実現しない可能性もある。

辞任を表明したキャメロン英首相は、EU離脱の正式な手続は後任に委ねる、自らは着手しないと述べた。今回の国民投票に法的拘束力はなく、政界からは、正式にEU離脱の手続を開始するためには議会での決議が必要であるという声も出ている。

英政府のウェブサイトで行われている国民投票のやり直しを求める請願には、わずか2日間で300万人以上が署名している。

欧州統合に対する第2次世界大戦後最大の脅威に直面した欧州諸国の首脳のあいだでは、離脱の交渉を開始する時期をめぐって意見が分かれている。フランス政府は迅速な開始を求め、ドイツのメルケル首相は慎重になることを呼びかけている。欧州委員会のユンケル委員長は「ただちに開始したい」と述べた。

26日、スコットランド自治政府首脳は、スコットランドはEU離脱そのものに対する拒否権を行使する可能性があると述べた。イギリス上院の報告書によれば、英国における権限委譲のルールのもとでは、EU離脱に際してはスコットランド、北アイルランド、ウェールズの各地方議会からの同意を得る必要がある。

英政治家の大半は、国民投票によって52%対48%の比率で決定した以上、離脱を実現すべきと同意するだろう。それ以外の結論はすべて、民主主義の露骨な否定になってしまう。

辞任演説においてキャメロン首相は、「国民の意志は、実行されなければならない指示だ」と苦しげな表情で語った。1957年、スエズ危機を受けて当時のイーデン英首相が辞任して以来、最も激しい混乱を伴う首相辞任となる。

英国が離脱を考え直すことができるか否かについて議論が高まるなかで「#regrexit(リグレジット、EU離脱を後悔)」というハッシュタグがツイッター上でトレンドになっている。金融市場や政界に混乱を引き起こした英国民投票を受け、欧州大陸を支配する懐疑的な空気を物語っている。

英ポンドは急落し、英国の政党はどちらも動揺している。キャメロン首相は指導者としてレイムダック化しており、野党第1党である労働党でも、26日にはトップ幹部のうち9名が辞任、指導部に反旗をひるがえす動きが生じている。

キングス・カレッジ・ロンドンのアナンド・メノン教授(欧州政治・外交論)は、「EUとの関係というだけでなく、我が国の政党を誰が仕切るのか、国を統治するのは誰か、そもそもこの国は誰によって構成されているのかという点がひどく混乱している」と言う。「パズルのピースがどこに収まるのか、非常に予想しにくい」

<リスボン条約第50条>

加盟国のEU離脱を規定しているのは、事実上のEU憲法とも言うべきリスボン条約の第50条である。この条項が発動された例はまだない。

国民投票に先立って、キャメロン首相は、もし結果が「離脱」になった場合には第50条が即座に発動されるだろうと話していた。先週末、複数のEU幹部からも、英国はただちに(早ければ火曜日のEU会合においてでも)正式に離脱する必要があるという発言があった。

だが、ボリス・ジョンソン元ロンドン市長を含む「離脱」キャンペーン幹部は、離脱にブレーキをかけつつある。彼らは、正式に離脱の手続を取る前に、「ブレグジット」後のEUとの関係について交渉しておきたいとしている。

複数のEU当局者と専門家は、解決困難な問題が含まれるだけに、そうした交渉がまとまる可能性は低いと話している。

たとえば、英国がEU域内において財・サービスの貿易を行うには、EUが英国に対し欧州統一市場へのアクセスを認める必要があるが、英政府がEU諸国の労働者の自由な移動を認めない限り、これは考えにくい。だが、「離脱」に票を投じた人々にとっては、最大のテーマは、「離脱」陣営のリーダーたちが約束した移民制限だったのである。

<分裂する英国>

26日、国民投票のやり直しを求める請願への支持が増え始め、午後には署名数が330万人に達した。野党・労働党の国会議員であるデビッド・ラミー氏は、再度の国民投票を要求し、その実施を促すことは議会の権限内であると述べている。

恐らく、イギリスのEU離脱に対して最も強く反発しているのはスコットランドだ。

人口500万人を擁するスコットランドは、68%対32%の比率でEU残留を支持した。これに対して、イングランドで離脱を支持したのは54%である。

英国では、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドに一部の権限を委譲する複雑な制度が施行されており、上院の欧州連合委員会の報告によれば、英政府でEU離脱を決める法律が制定された場合、権限委譲を受けている3地方の議会からの同意を得なければならないという。

スコットランド行政府のスタージョン首相は26日、BBCの取材に対し、スコットランド議会に対し、EU離脱の阻止を促すことを検討すると述べた。だが、そうしたシナリオが実現するのか、また拘束力を持つのかどうかという問題は残る。スタージョン首相の広報担当者は、英政府はそもそもスコットランドの同意を求めてこないのではないかと話している。

さらに、スタージョン首相はスコットランドの英国からの独立を問う新たな住民投票の下準備を進めており、同首相によれば、新たな住民投票が行われる可能性は「非常に高い」という。

<離脱撤回も>

リスボン条約第50条が発動された前例はないものの、英上院はすでに「ブレグジット」の進め方についての議論を行っている。5月、英上院は法律専門家への諮問を経て報告書を発表している。

この報告書のなかで、作成にかかわった学者たちの1人であるデリック・ワイアット氏は、政治的には困難であるものの、法律上は、第50条が発動された後でもイギリスが方針を変えることは可能だと述べている。

「法律上は、EUから離脱する前にイギリスが方針を変えて、結局、そのまま残留すると決定することは可能だ」と同氏は述べている。

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
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