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マクロスコープ:モジタバ師後継選出で「新型インフレ」懸念、原油急騰一時111ドル台 

2026年03月09日(月)09時49分

イラン周辺の地図と石油パイプラインのイメージ。2025年6月撮影。REUTERS/Dado Ruvic

Yusuke Ogawa

[東‌京 9日 ロイター] - 殺害されたハメネイ師の後継となるイラン‌の新たな最高指導者に、次男のモジタバ師が選出された。権力の「世襲」によっ​て、米国、イスラエルとの軍事衝突が長期化するとの見方から、米原油先物指標のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は9日早朝の取引で急⁠騰し、1バレル=111ドルを一時突破して2022年7月以来の高値をつけた。

今​後見込まれる電気料金をはじめとした生活必需品・サービスを中心とした物価高は、海外では「スクリューフレーション」と呼ばれる。低中所得層の生活を圧迫するため、格差拡大への懸念が強まっている。

<前資源エネ庁長官の違和感>

現在の原油相場が、ロシアによるウクライナ侵攻時よりも落ち着いているのは、個人的に強い違和感を覚える。(一時130ドルを上回った)当時と違って物理的に輸送が止まっており、こ⁠れから先物価格は跳ね上がるかもしれない――。

前資源エネルギー庁長官で、資源開発大手INPEXの保坂伸副社長が先週5日の討論会でこう話した矢先、原油相場は大きく動き出した。

ホルムズ海峡の封鎖が始まった当初は「原油収入に頼る⁠イランにとっ​てメリットはなく、事態は早く沈静化に向かう」との意見が根強く、原油相場の反応は鈍かった。だが、ミサイルやドローンを用いたイランによる報復攻撃によって、ペルシャ湾岸の原油タンカーや製油所の被害が日に日に拡大。また、貯蔵タンクが逼迫し、イラクやクウェートが一部の油田で減産を始めたと報じられ、供給不安が広がっている。

トランプ米大統領が海峡を通過するタンカーに対する護衛や保険の提供を表明したが、保坂氏は「船員が亡くなれば運航会社の責任問題になるため、簡単には航行できない」と指摘。日本エネルギー経済研究所(IEEJ)の小⁠山堅首席研究員も「イランの革命防衛隊は『通行すれば攻撃する』との方針を示しており、膠‌着(こうちゃく)した状況が簡単に解消されるとは思えない。当面は価格上昇圧力が続くのがメインシナリオだ」と語る。

中東調査会⁠の高橋雅⁠英主任研究員によると、サウジアラビアは、地上に設置した迂回パイプラインで紅海側に回すことができるものの、輸送能力は1日当たり500万バレルで限界がある。アラブ首長国連邦(UAE)には、インド洋側に位置するフジャイラ港へつながるパイプラインがあるが、イランによる攻撃を先日受けたばかりだ。

昨年6月の米・イスラエルとイランの軍事衝突局面では12日間で停戦にこぎつけたが、今回は不透明感が強い。楽天証券経済研究所の吉田哲コモディテ‌ィアナリストは「反米強硬派とされるモジタバ師が後継に選出されたことで、双方の攻撃が激化するだろう。週​内に120ドルに‌届く局面もあり得る」と語る。

一方で、米国経済⁠への懸念が見通しを複雑にしている。今月6日発表の米雇​用統計は、非農業部門の就業者数が前月比9.2万人減となり、事前予想を大幅に下回った。先行き楽観論がしぼむ中、IEEJの小山氏は「原油高によるコスト増に耐えかねたトランプ政権が、一定の成果を得たとしてイラン側と手を打つ可能性もある。これから1-2週間のうちに、次の動きが出てくるのではないか」との見解を口にした。

<穀物価格も上昇、家計の負担重く>

第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストはレポートで、原油価格がウクライナ戦争が始まった22年並みで推移した場合、「27年の‌家計負担額は前年比2.5万円増加になる。イラン情勢の緊迫があった12年並みで推移すれば、同3.6万円も増加させる」と推計し、家計に無視できない悪影響を及ぼすとの見方を示す。

原油高は電力代やガソリン代の上昇のほか、バイオ燃料の​需要増を通じて穀物高なども引き起こす。こうした生活必需品中心の物⁠価高は、低所得層ほど負担が重い。「締め付け」(スクリュー)と「物価上昇」(インフレーション)を合わせたスクリューフレーションと呼ばれ、輸入依存度が高い国で起きやすいという。9日に厚労省が発表した1月の実質賃金は、2025年末にガソリンの暫定税率が廃止された影響など​で前年比1.4%増と13カ月ぶりの増加に転じた。だが、プラス基調が定着するか予断を許さず、生活苦に直面する人々がさらに増える恐れがある。

たとえ今回の中東危機が短期間で解決したとしても、コスト高の火種は残る。INPEXの保坂副社長は一度リスクが顕在化すると、仮に軍事的な衝突が収束しても「船舶の保険料や用船料などは高止まりする」と強調。原油高が常態化するシナリオについて警鐘を鳴らした。

(小川悠介 編集:久保信博)

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