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アングル:正念場の「高市トレード」、株高機運の継続 次期首相がポイント

2025年10月10日(金)18時27分

 10月10日、自民党の高市早苗新総裁の政策を期待した「高市トレード」を追い風に上昇してきた日本株が正念場を迎えている。写真は1月、東京証券取引所で撮影(2025年 ロイター/Issei Kato)

Noriyuki Hirata

[東京 10日 ロイター] - 自民党の高市早苗新総裁の政策を期待した「高市トレード」を追い風に上昇してきた日本株が正念場を迎えている。公明党が自民党との連立を離脱し、少数与党の勢力はさらに減退することになった。高市氏の政策実行性が低下しかねず、総裁選後の株高が巻き戻されるリスクがくすぶる。新たな政治の枠組みを探る中で、高市首相誕生の可能性が残るかどうかが株価動向にとって焦点となる。

<株価調整は限定的か>

公明党の連立離脱が伝わった直後、日経平均先物は急落した。ただ、連休明けの株式市場で、直ちに株安が強まるとまではみられていない。今週の日経平均は急ピッチに上昇したこともあり「ボラティリティが上がるヘッドラインではあるが、今後の展開がわからない限り、方向感は見出しにくいのではないか」と三菱UFJモルガン・スタンレー証券の大西耕平上席投資戦略研究員はみている。

自公の連立解消で政治の不透明感が高まりかねない一方、長期間続いた自公政権の閉塞感の変化に期待が生じる可能性があるとも、三菱UFJMS証券の大西氏はみている。その後の政治の枠組みが決まるまでは4万8000円を挟んだ循環物色が続くとの見立てを示す。

総裁選後の高市トレードでは、世界的なAI需要の高まりへの期待感も重なって株高に弾みがついた面もある。自公解消で株安となるなら「AI投資を進めている投資家にとっては買い場になるのではないか」と、りそなアセットマネジメントの戸田浩司シニアファンドマネージャーは指摘、AI期待が株安の一定の歯止めになるとの見方を示す。

ニッセイ基礎研究所の上野剛志主席エコノミストは、公明党の連立離脱によってドル/円の円安圧力が急に収まることは考えにくいと話す。日経平均先物の下落に対し、ドル/円の反応は限定的だった。「週明けの株価が大きく下がるようなら、リスクオフの円買いが出るだろうが、財政拡張的政策への思惑は残る。ドル/円が大きく下押すことはなさそうだ」と話す。

リスクオフの債券買いに加え、財政拡張的な政策が実現する可能性の低下で「長期金利はやや下がる」とニッセイ基礎研の上野氏はみている。ただ、財政悪化への思惑は継続し、金利の低下も限定的とみている。

高市氏が総裁選に勝利した直後から公明党は、政治とカネの問題や靖国参拝、外国人政策などに懸念を示していた。26年にわたる自民党との連立を踏まえ、離脱はテールリスクとみる向きは多かったが、市場に警戒感がなかったわけでもない。

<「高市首相誕生」の可否がポイントに>

政局の不透明感の高まりを受けて、市場では「頭の体操」が活発化している。

「今後のポイントは、高市氏が首相になるかどうかだ」と、いちよしアセットマネジメントの秋野充成社長は話す。結果的に自民党が主導し、高市氏が首相になるならマーケットの動揺は収まるかもしれないと、りそなAMの戸田氏はみている。

先行き、自民党が国民民主党、日本維新の会と3党の連立を組む場合、衆議院での議席数で過半数が確保でき「株価にポジティブ」と三菱UFJMSの大西氏はみている。政策面で3党は親和性が低くなく、高市氏の政策の実現可能性が意識されるとの見立てが背景にある。

自民党が国民民主や維新と個別に連立を組む場合は、いずれのケースでも過半数には届かず、高市氏の政策への期待は持続しても、実現可能性の面からは、株価押し上げの機運は限定的にとどまりそうだ。一方、過半数が確保できない状況は自公の連立時と変わらないとみることもできる。国民民主と高市氏の政策は親和性が高いとして「(公明との連立時より)政策の推進力はむしろ上がるかもしれない」(いちよしAMの秋野氏)との見方もある。

自民単独となると、さらに政策実行力の低下が意識されやすく、市場の期待は剥落していく可能性がある。総裁選後の高市トレードは4万5000円から窓を開けて上昇しており、この出発点が目先の下値めどに意識される可能性がある。

現時点では実現可能性は低いとみられているものの、野党連合による連立政権の誕生への市場の警戒感は強い。外国人投資家は政治の不透明感を嫌うとされる中、政策の整合性が見込まれず、政権内からの不協和音が聞かれるたびに株価は水準を切り下げかねないと懸念されている。日経平均は4万円前後まで下落するとの見立てもある。

高市首相が誕生する場合でも、政策の実行スピードが低下するリスクはくすぶりそうだ。公明党の斉藤鉄夫代表は、国政選挙における党同士の選挙協力は「いったん白紙」と述べた。選挙時に公明党の組織票が見込めなくなることへの不満が党内から出かねないとして「党内での意見調整のハードルが上がるかもしれない」とニッセイ基礎研の上野氏は話している。

ロイター
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