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FRB議長、物価と雇用にらみ「難しい局面」 追加緩和時期示さず

2025年09月24日(水)03時51分

米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は23日、雇用の伸びの弱さが労働市場の健全性に対する懸念につながる中、インフレが想定以上のペースで加速するリスクは継続しているとし、FRBは難しい舵取りを迫られていると述べた。写真は9月17日、ワシントンで記者会見するパウエルFRB議長(2025年 ロイター/Elizabeth Frantz)

[ワシントン 23日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は23日、雇用の伸びの弱さが労働市場の健全性に対する懸念につながる中、インフレが想定以上のペースで加速するリスクは継続しているとし、FRBは難しい舵取りを迫られていると述べた。

パウエル議長はロードアイランド州グレーター・プロビデンス商工会議所で行った講演で、利下げを急ぎすぎればインフレが再び急上昇するリスクがある一方、利下げを過度に緩やかなペースで進めれば失業率が不必要に上昇する恐れがあると指摘。次回の利下げ時期について明確な手がかりはほとんど示さなかった。

パウエル氏は講演で「足元のインフレを巡るリスクは上振れ方向、雇用を巡るリスクは下振れ方向に傾いており、難しい局面にある」と述べ、FRBが16─17日の会合で0.25%ポイントの利下げを決定した際の表現を踏襲。4.00─4.25%としている現在の金利水準について、物価圧力に対しなお抑制的に働くとみられると同時に、潜在的な経済動向に機動的に対応することもできると述べた。

FRBの政策はあらかじめ決められた軌道に乗っているわけではないとした上で、FRBが過度に積極的な利下げを実施すればインフレ対策が不十分なままになり、インフレ目標の達成に向け後で方針転換を迫られる恐れがある一方、引き締め的な政策を長く維持しすぎれば労働市場が不必要に弱含む恐れがあると指摘。直近3カ月の雇用増が平均で約2万5000人と失業率を横ばいに保つための水準を下回っていることは雇用情勢を懸念する理由になると述べた。ただ、他の雇用関連指標は「おおむね安定している」とも語った。

物価については、関税措置が財(モノ)の価格を押し上げる要因になっているとし、インフレは「幾分高止まり」していると言及。こうした影響はいずれ薄れる公算が大きいものの、時間がかかるとし、物価の一時的な上振れが持続的なインフレ問題に発展しないよう、FRBは責務を果たしていくと語った。

また、関税により打撃を受けたのは貿易相手国ではなく国内の輸入業者や小売業者だったが、「彼らはその費用の多くを消費者に転嫁していない。そのためインフレへの実際の影響は極めて軽微だった」とも指摘した。

今回の講演は、トランプ政権から強い利下げ要求を受ける一方、クック理事の解任問題が最高裁で係争中となる中で行われた。政権当局者らは、パンデミック(世界的な大流行)期間中や2007─09年の経済危機時のFRBの緊急プログラムの妥当性にも疑問を呈している。

パウエル議長は、こうした異常な状況下での措置は、はるかに悪い結果を回避するのに役立った可能性が高いとの認識を示した。

「この2つの世界的危機は、われわれに長期間癒えない傷跡を残した。世界の民主主義国家では、経済・政治制度への国民の信頼が試されている。この時期に公務に就くわれわれは、嵐の海と強い向かい風の中で、重要な使命を最善の能力で遂行することに集中する必要がある」とパウエル氏は述べた。

その上で、「こうした前例のない大規模な衝撃にもかかわらず、米国経済は世界の他の先進国と同等かそれ以上の成果を上げている」とした。

<政治的圧力批判に反論>

この講演でパウエル議長は、FRBの政策運営の難しさを改めて強調し、データに基づいた客観的な判断を継続する姿勢を示した。

「多くの人々が、FRBがデータに基づいて決定していることを信じていない」とし、FRBがデータではなく政治を考慮して決定を行っているとの批判に反論。「しかし実際のところ、FRBを政治的だと呼ぶ人々の多くは、単に安易な攻撃を仕掛けているだけだ」と一蹴した。

<金融安定性リスクは「高まっていない」>

一方、株価が史上最高値更新を続ける中でも、現時点では金融安定性リスクは懸念していないと表明。市場について「一部の価格は歴史的水準と比較して高い」としつつも、「特定の金融資産の価格水準を目標にしているわけではない」とした。

ロイター
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