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アングル:9月FOMC、米労働市場の解釈巡り議論白熱か

2025年09月03日(水)17時13分

 9月2日、米経済は過去3カ月間の雇用の伸びが、新型コロナウイルスのパンデミック期を除くと、2007―09年の金融危機とそれに伴う景気後退からの回復途上期以来、最も弱い局面の1つに挙げられる水準にとどまっている。写真はレストランに貼られた求人広告。2023年1月、マサチューセッツ州メドフォードで撮影(2025年 ロイター/Brian Snyder)

Howard Schneider

[ワシントン 2日 ロイター] - 米経済は過去3カ月間の雇用の伸びが、新型コロナウイルスのパンデミック期を除くと、2007―09年の金融危機とそれに伴う景気後退からの回復途上期以来、最も弱い局面の1つに挙げられる水準にとどまっている。

それでも失業率は4.2%と1年前と変わらず、米連邦準備理事会(FRB)が推計する完全雇用の水準に近い。賃金の伸びは年率約4%とインフレ率を十分に上回っているが、インフレ懸念を強めるほど高い伸びではない。

FRB当局者は9月の連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げの可能性を検討する際に、矛盾するファクトのうち労働市場の先行きについて最も強いシグナルを発しているのはどれか、判断を迫られる。5日発表の8月雇用統計は、雇用の伸びが4カ月連続で弱かったのか、それとも持ち直して労働市場の健全性を示したのかが明らかになるだけに、極めて重要だ。

直近数カ月の手がかりに基づくと、政策当局者の見方次第というのがその答えだ。一部の当局者は労働市場が崩壊寸前だと感じているが、賃金の伸びが続く一方で労働供給が減っている現状を踏まえて、月次の雇用増の鈍化が「新常態(ニューノーマル)」になっていると解釈する当局者もいる。

直近3カ月の雇用の平均増加幅はわずか3万5000人で、以前なら失業率上昇の前触れと受け止められかねない水準だ。しかし今ではこの数値は「均衡点」に近いとみられている。不法移民の強制送還や移民制限の強化により、均衡点は10万人を大幅に下回る水準に低下したと推定されている。

ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は先週のCNBCテレビで労働市場について、現在の雇用創出の均衡水準を「特定するのは非常に難しい」と述べ、労働市場全体の健全性の指標として賃金上昇などを注視していると説明。こうした指標は「依然として堅調な労働市場と、2%のインフレ目標に向かう状況に整合的だと感じている」と述べた。

ADPのチーフエコノミスト、ネラ・リチャードソン氏は「労働市場は大方、雇用のペースが鈍化しつつ、企業が従業員を解雇したがらない状況を反映している。しかし問題は、それが安定的な均衡なのか、それとも次の展開への一時停止にすぎないのかだ。一時停止は、消費が堅調なら雇用増加につながる可能性もあるが、消費に陰りが見えれば勢いの鈍化につながる。われわれは転換点に立っている」と述べた。

市場はFRBが9月16―17日に開くFOMCで0.25%ポイントの利下げを決める可能性が高いと見ている。FRB当局者は30兆ドル規模の米経済においては一度のFOMCの決定は大きな意味を持たないと強調するのが常だが、9月会合はシンボリックな意味合いを帯びている。インフレを押し上げるトランプ政権の政策を巡る懸念をFRBが踏み越えて、より中立的な金利水準に向けて利下げを始める用意があるかどうかを示す「全員投票」としての位置づけにあるからだ。

最近のデータは政策当局者にインフレ懸念は完全に払拭されたと感じさせる内容ではない。

関税引き上げの消費者物価への波及は当初予想されていたほど大きくなかった。しかしインフレはFRBが目標とする2%に向けた進展が最近ほとんど見られず、政策当局者がインフレは財に限定されることを期待していた矢先に、サービス業の一部で価格が上昇した。株高と堅調な個人消費が続くなか、当局者の間には金融政策はほとんど景気を抑制していないとの見方もある。

パウエル氏はジャクソンホール会議での最近の講演で利下げの可能性に言及し、関税によるインフレの押し上げ効果は一度きりだという「基本シナリオ」を示した。しかし同時に「何があろうとも、一時的な物価上昇が持続的なインフレ問題になることは許さない」とも断言した。

利下げ期待が高まる一方で、最終的なインフレと雇用統計に矛盾がある限り、議論は激しいものになる公算が大きい。

雇用統計について当局者は失業率のようなヘッドラインのデータだけでなく、平均労働時間が減少していないことが労働市場の健全さを示すと解釈できるかなどを検討している。

採用率の低下は失業率上昇の前触れとなるかもしれない。しかし労働供給も減少しているなら当然の結果にすぎず、パウエル氏の言う「奇妙な均衡」を労働市場にもたらしていることになる。フィラデルフィア連銀が算出する労働者の転職頻度に関する指数はパンデミック前とほぼ同様の水準。一方、チュムラ・アナリティクスのJobsEQによると、パンデミック期に急増した求人件数は減少し続けている。

異なるストーリーを裏付けるデータが存在する中、政策当局者はどのリスクに最も備えるべきかを熟慮せざるを得ない。

セントルイス連銀のムサレム総裁はロイターのインタビューで、インフレが依然として最大の懸念であり、物価はFRBの望む以上のペースで上昇していると指摘。労働市場のリスクは高まっているものの、まだ現実化していないとした。

一方で一部の当局者は、インフレが持続する兆しに対処する方が、崩壊した労働市場を立て直すよりも容易だろうと述べている。

7月のFOMCで利下げを支持し、金利据え置き決定に反対票を投じたウォーラー理事は先週、金利据え置きの継続がリスクを高めていると指摘。「労働需要は急激な悪化の瀬戸際にあるかもしれない」と最近の雇用動態に関するスタッフ試算に言及。FRBは「労働市場が悪化するのを待ってから政策金利を引き下げるべきではない」と強調した。

ロイター
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