アングル:米物価上昇は一時的なのか、トランプ関税巡りコロナ禍当時の論争再燃

7月22日、ベセント米財務長官の顧問を務めるジョセフ・ラボーニャ氏は、トランプ大統領が打ち出した関税措置が物価に及ぼす影響は一時的だと信じており、関税がインフレにつながると予想するエコノミストは間違いだと断言する。写真はニューヨークのスーパーで買い物をする人。15日撮影(2025年 ロイター/Jeenah Moon)
Paritosh Bansal
[22日 ロイター] - ベセント米財務長官の顧問を務めるジョセフ・ラボーニャ氏は、トランプ大統領が打ち出した関税措置が物価に及ぼす影響は一時的だと信じており、関税がインフレにつながると予想するエコノミストは間違いだと断言する。
先週発表された最新の消費者物価指数(CPI)に関税の影響が見られ、今後数カ月でそうした影響が拡大する、というのがこれらのエコノミストの見方だ。
しかしラボーニャ氏は、データを総合すると物価はなお落ち着いていると主張。ロイターの記者に「ほとんど全てのエコノミストが間違っている」と語り、トランプ政権内の同僚たちは主流派エコノミストの分析は政治的偏見で曇っていると感じていると付け加えた。
ラボーニャ氏の考えでは、インフレというのは一度限りの物価水準の上昇ではなく、恒常的な物価上昇であり、関税が与える影響はこれから出てくるとしても、一時的な物価水準調整の範囲内にとどまるという。
こうした発言からは、新型コロナ禍で起きたのと同じ論争がトランプ関税を巡って再燃している様子が浮き彫りになった。当時は米連邦準備理事会(FRB)が物価上昇は一過性の現象に過ぎないと判断し、実際にはそうでなかったことが分かっている。
現在も複数のトランプ政権高官や一部のFRB理事が、関税が物価に与える影響は一時的と想定しているが、他のエコノミストや市場参加者は、関税が成長鈍化やインフレをもたらすはずだと確信し続けている。
いずれにしても物価動向に関してまだ判明していない部分が多く、今後のデータ待ちという状況にある。関税政策の最終的な姿はなお見えていないし、物価上昇が別の分野に波及するかもしれない。関税がインフレ期待を押し上げる事態もあり得る。
関税の物価への影響を追跡するモデルを開発したハーバード大のアルベルト・カバロ教授は「たとえ関税が一過性のコスト増だと考えるとしても、確率が高いのは企業が一度に価格転嫁しない展開だ。彼らは徐々に転嫁を進め、それは相当長い期間にわたって物価を押し上げがちだ」と指摘する。
世界の金融市場、投資家や消費者はいずれもコロナ禍後の金融緩和とサプライチェーン(供給網)混乱によって起きた数十年ぶりのインフレで痛い思いをしてきただけに、物価動向は重大な問題だ。トランプ氏が大統領選に勝利した一因も、物価高に対する有権者の不満だった。
トランプ氏はFRBに最大3%ポイントの政策金利引き下げを要求し、利下げに動かないパウエル議長への批判を強めている。だが、一部のエコノミストや投資家は、大幅な利下げはコロナ禍後のインフレを再び招く危険があると警告している。
カバロ氏も「FRBが大きな決断をする前に様子見しているのは妥当だ」と評価した。
<異なる見解>
カバロ氏の調査では、今月14日時点で企業の「急速な価格設定面での対応」が見受けられたものの、発表された関税率に比べると依然として小幅な動きだった。
FRBのエコノミストチームが5月に公表した論文に基づくと、2月と3月の消費者物価には既に中国製品に対する関税の影響が顕現化していたという。
一方、大統領経済諮問委員会(CEA)は今月、輸入品の価格は今年下落しているとの見解を示した。
関税が物価に及ぼす影響を巡る論争で、FRB内の意見対立も生まれている。パウエル議長の後任候補の1人とされるウォラー理事は、物価面で関税が与える影響は限定的になりそうだとの見方を示し、実体経済と民間雇用の鈍化の始まりが懸念されるとして今月の連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げを求める意向を示唆した。これに対し、ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁らは判断するのは時期尚早だとの慎重論を唱えている。
マッコーリー・グループのグローバルFX金利ストラテジスト、ティエリー・ウィズマン氏は18日の顧客向けのメモに「当局者発言でFOMC(の意見)が分裂していることがうかがえる」と記載。この状態が続けば政治的な動機に基づき物価安定の使命を犠牲にして利下げしようとするグループと、その反対派で真っ二つになりかねないと警戒感を示した。