ニュース速報
ビジネス

アングル:コーヒー豆高騰の理由、カフェの値段にどう影響

2024年12月07日(土)07時55分

 12月4日、ブラジルとベトナムの天候不良により、コーヒー豆の国際価格が約50年ぶりの高値に急騰している。写真は、コーヒー農園で焙煎されたコーヒー豆。11月29日、エルサルバドルのフアユアで撮影(2024年 ロイター/Jose Cabezas)

Maytaal Angel

[ロンドン 4日 ロイター] - ブラジルとベトナムの天候不良により、コーヒー豆の国際価格が約50年ぶりの高値に急騰している。食品メーカーのネスレなどは値上げを余儀なくされ、生活費の高騰に苦しむ消費者はより安価なコーヒーを求めている。

価格高騰は今年収穫する農家にとって追い風だが、トレーダーは取引所でのヘッジコストが増えるほか、事前購入した豆の受け渡しを確保する必要に迫られる。

<価格上昇の要因>

過去3年間、コーヒー豆はブラジルとベトナムの悪天候の影響を受け、世界的な供給量が需要に追いついていない。在庫は枯渇し、米インターコンチネンタル取引所(ICE)のコーヒー先物指標価格は1ポンド当たり3.36ドルに達した。

これはブラジルのプランテーション(大規模農園)が広く雪害に遭った1977年以来の高値。しかし、当時の方が消費者への打撃はずっと大きかった。インフレ分を調整すると、77年の1ポンド=3.36ドルは現在の17.68ドルに相当する。

専門家は、コーヒーの生産量がさらに1年間低迷すると予測している。世界の高級豆アラビカ種のほぼ半分を生産するブラジルは今年、過去最悪級の干ばつに見舞われた。10月にようやく雨が降ったものの土壌の水分は依然として乏しく、専門家は、葉が多過ぎるため結実する花が少な過ぎると予想している。

インスタントコーヒーの原料として一般的に使われるロブスタ種の約40%を生産するベトナムは、今年初めに深刻な干ばつに見舞われた後、10月以降は降雨が過剰となっている。

コンサルティング会社ストーンXは来年のブラジルの生産量について、アラビカ種が10.5%減の4000万袋に落ち込み、ロブスタ種の生産量増加によりある程度相殺されるものの、全体では0.5%減少するとみている。

ベトナムでは2025年9月末までの1年間に収穫量が最大10%減少する可能性があり、ロブスタ種の世界的な供給不足に拍車をかけそうだ。

<取引業者が懸念する理由>

ブラジルを拠点とする取引業者、アトランティカとカフェブラスは現在、コーヒー豆の価格高騰やヘッジコストの増大、受け渡しの遅延によって打撃を被り、裁判所の監督下で債務再編を求めている。交渉が成功しなければ破綻する。

こうした現地業者から豆を仕入れる業者は通常、現物市場で買い付けた分をヘッジするため、先物市場でショート(売り)ポジションを取る。

多くの取引業者は現在、コーヒー豆の現物が手に入らなくなることを恐れ、含み損の出ているショートポジションを解消している。ショートポジションを解消するには先物でロング(買い)ポジションを取る必要があるため、価格はさらに上昇する。先物価格が上昇すれば証拠金の額が増え、取引業者の負担は一段と増す。

<食品メーカーと消費者への影響>

コーヒー前の価格高騰は焙煎して販売する食品メーカーにとって問題だ。

ネスレの今年8月、トップが交代した。価格の上昇で消費者が安価なブランドに切り替え、ネスレは販売が落ち込んだ。市場シェアが低下し、取締役会が不満を募らせた。

焙煎を手掛けるメーカーは何カ月も前にコーヒー豆を調達する傾向があるため、消費者が価格高騰を実感するのは6カ月から12カ月後だろう。

一方、店でコーヒーを飲む消費者は現在の価格上昇による打撃をそれほど感じないだろう。スターバックスなど主にカフェの店舗でコーヒーを提供する企業の場合、1杯5ドルのコーヒーのコストに占めるコーヒー豆国際価格の割合が約1.4%にとどまるため、他の業者に比べて価格高騰の影響を回避しやすい。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中