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アングル:渋滞解消の切り札になるか、「空飛ぶタクシー」に備える米国

2024年06月18日(火)12時07分

 「鳥だ」「飛行機だ」「いや、空飛ぶタクシーだ」となるだろうか。空飛ぶタクシーの実用化がカウントダウンに入る中、全米の都市は「空中都市交通」への備えを迫られている。写真は2023年11月、ニューヨークで撮影されたジョビー・アビエーションのエアータクシー(2024年 ロイター/Roselle Chen)

Carey L. Biron

[ワシントン 12日 トムソン・ロイター財団] - 「鳥だ」「飛行機だ」「いや、空飛ぶタクシーだ」となるだろうか。空飛ぶタクシーの実用化がカウントダウンに入る中、全米の都市は「空中都市交通」への備えを迫られている。

「空飛ぶタクシー」の実態や見た目、想定される利用者はまだ明らかではない。だが都市当局者は、近い将来それが登場するという前提で準備を進めたいと考えている。

空飛ぶタクシーをうたう小型電動航空機に対する米規制当局による正式な認可はまだ1件もない。だがそのプロセスは進行中で、複数の事業者が、早ければ来年にも飛行を開始したいと競い合っている。

フロリダ州オーランド市のモビリティー改革責任者を務めるジャック・クーロン氏は、「多くの人が考えているよりも実現は早い」と語る。

各社のプロトタイプに統一感はなく、ローターや翼については多くのデザインが競い合っている。パイロットが乗り込んで操縦するタイプもあれば、自動操縦で運用されるものもある。

クーロン氏はトムソン・ロイター財団の取材に対し、「まだ申請は受理していないが、恐らく時間の問題だろう。しっかりと準備しておきたい」と語った。

クーロン氏を含め当局者としては、地元の経済や雇用、接続性向上という点で想定されるメリットと、騒音や環境破壊、そして安全性や公平性に関する懸念といったデメリットを天秤にかける必要がある。

「こうしたモビリティーにおける新しく画期的な選択肢を、既存の地域社会に悪影響を及ぼさないような形で導入するために、どのような改革を積み重ねていけばいいのか」とクーロン氏は自問する。

電動垂直離着陸機(eVTOL)とも呼ばれる「空飛ぶタクシー」は、地方・地域の交通、緊急・救命サービスその他の用途を想定した小型電動マシンに関する構想だ。

推進派に言わせれば、空飛ぶタクシーは従来の航空移動手段よりも静かで環境汚染も少なく、都市生活にもシームレスに統合しやすいという。

世界経済フォーラムで自律モビリティー分野のリーダーを務めるマリア・アロンソ氏によると、ニューヨーク、パリ、ドバイをはじめとする都市では、早くも空飛ぶタクシーが垂直に離着陸できる「垂直空港」の建設が進んでいるという。

アロンソ氏は、空飛ぶタクシーに向けた準備では米国、中国、アラブ首長国連邦(UAE)の都市が先行しているものの、地元の政策担当者はもっと関心を注ぐ必要があると語る。

国内各地の都市による連合組織である全米都市連盟で交通・インフラ担当法制ディレクターを務めるブリトニー・コーラー氏は、「早く実現してほしいという実に力強い需要がある」と語る。

コーラー氏によれば、各都市は接続性の向上に関して潜在的なメリットを期待しているが、それが誰に恩恵をもたらすのかという点で懸念もあるという。

「航空機の場合は、地域社会をいらだたせ、健康、精神衛生面で多くの影響を与えてしまった。同じ失敗を繰り返さないようにしたい」

<一長一短>

米連邦航空局は昨年、この産業に関する展開予想を発表した。そこでは、こうした航空機の初期の利用形態はヘリコプターと似たものになり、その後は、空飛ぶタクシーが空港と都市中心部にある垂直空港を往来し、いずれは航路がより複雑になっていくと想定されている。

規制当局では、空飛ぶタクシーの運航開始を2028年と想定しているが、革新的企業の中には、もっと早い事業開始を希望しているところもある。

カリフォルニア大学の輸送持続可能性研究センターで上級研究マネジャーを務めるアダム・コーエン氏は、空飛ぶタクシーは「社会を一変させる」潜在的可能性を秘めているものの、都市生活に「非常に大きな問題」をもたらすかもしれないと指摘する。

空飛ぶタクシーが離着陸する場所については地方自治体にもかなりの規制権限があるが、空域を管理するのは連邦政府だ。

とはいえ、コーエン氏によれば、都市当局は運航時間の制限など地元の懸念に対処するための手段を数多く持っており、当該産業の公正な発展を確保するうえで重要な役割を演じることになるだろうという。

「どこにインフラを配置するかという判断次第では、公正な結果をめざすうえで公共セクターは本当に重要な役割を果たすことができる」とコーエン氏は言う。

「同時に、緊急対応や空飛ぶ医療サービスなど公共性のある優れた活用事例を支援するといった、潜在的なメリットをさらに広い社会階層に及ぼすような政策にも注目している」

<「都市の定義が変わる」>

空飛ぶタクシーの実用化をめざすエアモビリティー企業は、連邦レベルでの認可に向けて、すでに都市当局と緊密に連携している。

昨年、米航空業界最大手であるボーイングに買収されたウィスク・エアロは、ロサンゼルス、ヒューストンその他の都市での開業を念頭に、4名の乗客を輸送できる自動操縦の電動航空機の認可取得をめざしている。

ウィスク・エアロで地方都市連携責任者を務めるエミリアン・マルシャン氏は、「地上交通はますます混雑しつつあり、持続可能なモビリティーへの移行に向けた解決策だけでなく、都市が住民に最善のサービスを提供するための新たなツールを必要としている」と語る。

ウィスク・エアロでは、ウーバーブラックのような高級車シェアサービスと同等の運賃で、2020年代中には稼働を開始したいと希望している。

「都市とは何かという定義が変わっていくだろう」とマルシャン氏は言う。「(空飛ぶタクシーにより)15分で30─50マイル(約48─80キロ)を移動できると考えれば、まさに都市圏の半径が広がることになる」

<騒音、危険性、煩わしさ>

ロサンゼルス市などの都市当局は、空飛ぶタクシーのテクノロジーを地元住民に紹介し、懸念を軽減しようと努めている。

空飛ぶタクシー導入への準備に関して市当局と提携している官民パートナーシップであるアーバン・ムーブメント・ラボの創業者フランシス・ポラーラ氏は、「飛行高度や、航空交通管制の未整備、上空通過の際の騒音に対する懸念が見られる」と語る。

ロサンゼルス市はポラーラ氏の協力を得て、都市空間におけるさまざまな航空機の騒音レベルを体験できる市営のシミュレーション施設を開発した。

だが、未知数なのは騒音レベルだけではないという懐疑的な見方もある。

ウィスコンシン州ミドルトンは9月、FAAが発表した展開予想について「地上で暮らす住民にとっての生活の質や騒音、安全性に対する懸念について、ほとんどまったく考慮されていないように見える」と述べた。

ニューヨーク市立大学のアーライン・ブロンザフト名誉教授もその点を懸念している。同名誉教授は、高架鉄道の騒音が学習に与える影響についての専門家だ。

ブロンザフト名誉教授は、「騒音が少なく、したがって住民にとっても煩わしくないというのが、この種の機体のセールスポイントになっている」としつつ、どのような航空サービスであれ、飛行頻度が上がれば、そうしたメリットも帳消しにされかねないと指摘する。

「音が聞こえる頻度が上がってくれば、煩わしさもさらに増していく可能性がある。問題がないとは言い切れない」

(翻訳:エァクレーレン)

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