コラム

誹謗中傷には厳罰化された侮辱罪で対抗せよ

2022年08月26日(金)16時12分

驚くべきことにこのとき当該の被告は、裁判所に次のような趣旨の抗弁書を提出した。「他にももっとひどい批判があるはずなのに、愛を以って揶揄したに過ぎない自分を訴えてくるのは濫訴(訴権の乱用)である。私の批判とはむしろ古谷への応援であり評論の一種である」。

「言論には言論で抵抗するべきだ」という欺瞞をトレースした無理筋の抗弁であったが、民事裁判では訴えられた被告側が、時として判決の遅延のために裁判官の前で意味不明なことを叫びまくったり、または完全に破綻した文章を提出したりすることがよくある。稀に反訴してくるが苦し紛れの戦術にすぎない。どんな滅茶苦茶な理屈でも、一応文章として抗弁する権利が被告にはあるからである。

繰り返すが「古谷は知的障碍者である」というのは批判ではなく、事実と異なる単なる侮辱である(この裁判で私は名誉棄損を主張したが、裁判官は侮辱と認定して判決を出した)。裁判官は公正に判断を下すので当然私が完全勝利した。

或いは、「古谷は左翼のゴミクズで守銭奴である」という趣旨を堂々とSNSで書いて拡散に努めていた人間がいた。驚くべきことにこの人物は大学で教授をしている社会的地位のある人物であった。余程私に恨みがあったのか、良く分からない。弁護士から内容証明を大学あてに送ると、「削除しない場合や本状を黙殺した場合は770万円の請求を即座に起こす」という文面に恐れをなしたのかすぐさま投稿を全部削除して本訴には至らなかった。

「訴える」とか「法的措置を取ります」という表明はほとんど意味が無い。土台、インターネット上で侮辱を堂々と行ってくる人間というのは何かしら人格的に破綻しているので話し合いは無意味だ。「話せば理解しあえる可能性がある」と思っているのなら、それは間違いであり甘い考えだ。その考えこそが相手にスキを与え、更なる誹謗中傷を増幅させる。

訴訟すると決意した翌日には本訴に向けての準備に入り、具体的な訴額を念頭に置いて弁護士に委託し、決然とした意志を実行に移す。その事実は直ちに公で宣言するべきである。なぜならそれが更なる誹謗の抑止につながるからだ。これこそがネット時代の誹謗中傷に対する最も端的な解決策である。

さてこれは民事の話であるが、今回の改正刑法は当然刑事の領域である。前掲は私の経験してきた民事訴訟の一部だが、これはすべて私が決意すれば民事訴訟と同時並行して刑事事件化することもできた。或いは逆に刑事事件一本やりとして「国家による懲罰」に期待することもできなかったわけではない。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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