コラム

自民党は一度、ネット世論戦略に失敗している。Dappiはその後継か?

2021年10月21日(木)18時12分

自民党も馬鹿ではない。このようなJ-NSC会員の「狼藉」を見て、不良会員の統制が必要であると判断したはずである。なにせ法務省がヘイトスピーチ撲滅を掲げ、ヘイトスピーチ規制法が第二次安倍政権下で成立したのだ。第二次安倍内閣の中期以降、J-NSC自体が徐々にだが穏健化していったことは事実である。この背後には、一部の不良会員が淘汰されたか、様々な事情で自主退会を余儀なくされたものと思われる。

このようなJ-NSCの「失敗」を奇貨として、自民党は次のことを学んだはずである。

1)ネット世論工作をするのはよいが、教養が低い素人の「ネット保守」に全面委任してはいけない。

2)よってネット世論工作には、専門の"プロ"が必要である。

Dappiが最初にアカウントを作った時期と、J-NSCの「穏健化」は、不思議なほど重なる。繰り返すが、私はDappiの背後に自民党がいるとか、自民党からの利益供与があったなどと断定するつもりはない。しかし、奇妙なことに、J-NSC会員らによる「素人の狼藉」に手を焼き、なんとか不良会員を統制しようと試行錯誤した挙句、ようやくJ-NSCが沈静化した概ね2015年秋以降から、Dappiのツイートは開始されている。これは単なる偶然だろうか?

素人に任せるよりプロに金を払うのが得策

自民党が、統制の取れない素人(ネット保守)にネット工作を委任するより、専門家に幾ばくかの金を渡してでも依頼したほうが効果的である、と判断したとしたら、なるほどその判断は合理的である。

すると、Dappiなるアカウントがネット世論に必ずしも著効しなくとも、金銭で以て依頼する動機にはなろうというものだ。当然これは推測で、単なる推理の範疇を出ないが、Dappi自体に大きな影響はないものの、いずれネット工作をするのであれば、自民党としては素人(J-NSC)ではなく玄人を雇ったほうが効果的であると、判断する材料の一部にはなったであろう。とはいえそのプロも、今次のように小西議員のIP開示請求によって裸にされたのだから、プロとしての技量がどこまであるのかは疑わしいのではあるが。

今次小西議員のDappiに対する名誉棄損裁判において、私はどちらの側に立つわけでもない。私は根本から、Dappiなるアカウントが自民党と取引がある法人であっても、その発言は個人の趣味でやっていたのだと信じたい。万が一そこに自民党からの利益供与があれば、内閣が吹き飛び自民党は取り返しのつかないダメージを負う。はっきり言って、露見するあらゆる工作は二流だ。まさか大衆政党である自民党がそんなことをするまい、と思っている。Dappiは法人ではあるが、その「中の人」は会社のPCから個人の趣味でやっていた、ことを切に願って脱稿とする。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン主要濃縮施設の遠心分離機、「深刻な損傷」の公

ワールド

欧州委、米の10%関税受け入れ報道を一蹴 現段階で

ワールド

G7、移民密輸対策で制裁検討 犯罪者標的=草案文書

ワールド

トランプ氏「ロシアのG7除外は誤り」、中国参加にも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story