コラム

保守派に大激震──愛知県知事リコール不正署名で田中事務局長ら逮捕の衝撃

2021年05月21日(金)18時42分

しかし田母神氏はこの時の選挙で集まった寄付金等の不正使用等の疑いで2016年に逮捕・起訴される(公職選挙法違反―買収)。田母神被告は争ったが、2017年の最高裁で有罪が確定。これをめぐって、田母神候補を支援した日本文化チャンネル桜と、田母神側が不正をしていないという一派が分裂し、お互いがお互いを罵りあうという戦いが展開されたのであった。

以上、ゼロ年代から現在までの保守界隈の政治的運動を俯瞰してみたが、彼らが獲得した寄付金や、裁判の経緯や、立候補した際の得票数にあっては、至極民主主義的原則に則ったもので、後日その寄付金の使用に不正が発覚したとしても、獲得した得票数に不正はなかった。これが今次の愛知県知事リコール署名運動との最大の違いである。

田中容疑者逮捕で衝撃を受ける保守界隈~保守派の政治的運動終わりの始まりか~

曲がりなりにも保守界隈における政治的運動は、これまであらゆる意味で民主的手続きに忠実であろうとした。

しかし愛知県知事リコール署名は、根底からその手続きを無視した暴挙であった。保守界隈は、「結果としての不正」ではなく「原因としての不正」という禁断の果実に最初から手を染めてしまった。

これまで繰り返された集団訴訟や首長選挙への立候補という保守界隈の大規模な政治的運動は、一義的には民主的手続きに則ったモノであったが、これが最初から嘘であったのであれば、保守界隈の政治的運動は完全にその信用を喪失し、当然のこと保守界隈やそれに追従するネット右翼界隈以外の一般有権者からも、完全に信用が失墜した格好となる。

筆者は今次愛知県リコール署名不正問題での逮捕者出来に際し、県外からネット上で応援した古参のネット右翼の男性(60代)に話を聞いたところ、


「私はジャパンデビュー訴訟(2010年)の時から様々な保守派の政治運動に協力してきたが、愛知県知事リコール署名は根底から構造が違う。これまでの保守活動は、負けたとしても正々堂々と胸を張れる正統性があったが、リコール問題は根底から嘘をついていた。これでは世論から白眼視される。保守派は嘘をつく、捏造する、というレッテルを貼られてもしょうがない。今後、類似の活動を支持できるかどうか正直言って自信がない」

と失望した声色で語った。これが保守界隈とそれに追従するネット右翼の偽らざる落胆と失望の象徴ではないか。

今後、保守界隈が何を主張しても、その主張がかなり好意的にみて正統であったとしても、その根本が嘘と捏造であったのであれば、保守界隈が敗北を重ねながらも連綿として民主的手続きに則った運動を展開してきた歴史は完全に瓦解することになる。

今次田中事務局長らの逮捕は、保守界隈における政治的運動の終わりを意味するものとなるのか。

※当記事はYahoo!ニュース個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

独インフレ率、1月は前年比2.1%に加速 ECB目

ビジネス

労働市場巡る「著しいリスク」、利下げ主張の理由=ウ

ビジネス

米12月PPI、前年比3.0%上昇 関税転嫁で予想

ビジネス

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏指名 上院
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵士供給に悩むロシアが行う「外道行為」の実態
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 5
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパ…
  • 6
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 7
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 8
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 9
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story