コラム

高市大臣の「8割大陸」発言、曖昧決着は許されない

2022年10月17日(月)16時43分

高市氏の発言が主催の保守派団体へのリップサービスだったとしても問題だ  Issei Kato- REUTERS

<「国葬反対のSNS発信の8割が隣の大陸からだった」とツイートし、高市氏の講演で聞いたと述べた三重県議は発言を撤回、当の高市氏も曖昧な否定で収めようとしているようだが、その真意はフェイクニュースによる世論操作だったかもしれず見逃せない>

10月2日、三重県議で自民党に所属している小林貴虎議員が、自身のTwitterに「国葬反対のSNS発信の8割が隣の大陸からだったという分析が(政府の調査で)出ているという」と投稿し、その根拠は高市早苗経済安全保障担当大臣の発言だと述べたことで、大きな衝撃が走った。高市大臣はその発言はしていないと述べるが、他に聞いた人物の証言もあり、疑惑は全く解消されていない。

「国葬反対のSNS発信の8割が隣の大陸からだったという分析が出ているという」という、荒唐無稽な陰謀論かつ排外主義を扇動する発言が現職大臣の口から出たとすれば大きな問題だ。

小林貴虎議員のツイートによれば、「国葬反対8割大陸」の根拠は「政府の調査結果」であり、高市早苗・経済安全保障担当大臣の「講演で伺った話」だという。高市大臣は、小林議員のTwitter投稿があった10月2日に、名古屋市内で行われた日本会議の会合「日本会議東海地方議員連盟設立総会」で講演していたことが分かっている。

小林貴虎議員によって名前が出された後、高市早苗大臣の公式アカウントには事実関係を問うリプライが殺到した。それを受けて高市大臣は「政府の調査」については自身のTwitterで否定した。しかし、この時点では発言自体の有無については言及していなかった。

小林貴虎議員は10月6日に会見を開き、自身の発言を「撤回」した。その翌日、高市早苗大臣は記者団に対し発言を否定するとともに「そもそも大陸という言葉を私は使わない」と述べた。

疑惑は解消されぬまま

しかし本人たちが後から否定したとしても、発言したという疑惑がなくなるわけではない。発言の証拠が他にもあるからだ。たとえば2日の講演を聴いた別の参加者が、小林議員が聞いたものと同様の内容を高市大臣がしていたという報告をTwitterで行っていたことが分かっている。当該のツイートは削除されているが、スクリーンショットされたものが出回っている。「「国葬儀反対」のツイートの8割が支那発だった、と聞いた。なるへそ!!」というものだ。この内容面での一致は偶然とは考えられない。

さらに、もし小林議員のツイートの根拠が高市議員ではないとするならば、彼は一体誰の何を根拠にしたのだろうか。もし高市議員の講演を聴いて、その内容を誤解したのだとすれば、元々の発言は何だったのだろうか。小林貴虎議員は記者会見で発言を撤回したが、なぜ誤ったツイートをしてしまったのかについては、ついに説明することはなかった。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、習氏と会談の用意 中国「混乱の元凶」望

ワールド

ロシアとサウジ、OPECプラス協調「双方の利益」 

ワールド

維新、連立視野に自民と政策協議へ まとまれば高市氏

ワールド

ゼレンスキー氏、オデーサの新市長任命 前市長は国籍
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story