コラム

<衆院選>それでも日本人は新自由主義を選んだ

2021年11月01日(月)13時48分

知事が評価されているのは、大阪ではほぼ毎日吉村知事が在版メディアのどれかの番組に出演するというメディア戦略の徹底が理由だともいわれる。確かにマスコミを抑えてしまえば、国政選挙にも有利に働くだろうというのは容易に想像がつく。
ただし、こうした事情はいったん括弧にいれて、今回の選挙で日本維新の会が勝利した政治的意味を考えてみたい。もちろん勝利といっても、客観的にみれば一番の「勝者」は、圧倒的多数の議席を獲得した自民党だ。しかし選挙は全ての政党がゼロから議席を積み上げるゲームではなく、前回までの実績からの増減が重要になる。前回の議席から割合でも実数でも議席を最も増やしたのは日本維新の会だ。これがこの選挙の政治的意味となる。それはいったい何だろうか。今回の選挙に参加したそれぞれの政党の主張を比較して考えれば、「新自由主義の勝利」ということになるだろう。

新自由主義政党としての維新

日本維新の会はこの数年間、国会では政府与党の補完勢力として機能してきた。共謀罪法案など、維新議員が与党の強行採決の切り込み役になったこともあった。しかし選挙では政権批判を繰り返し、自民党への対抗政党であることを装っていた。

岸田自民党は、選挙中にどんどんトーンダウンしていったものの、「分配」を重視し、新自由主義から脱却する穏健な宏池会路線を標榜していた。一方の対抗勢力である立憲民主党・共産党・社民党・れいわ新選組もまた「分配」を掲げ、どんどん元の自民党に戻っていく岸田首相を批判していた。野党共闘から距離を置く国民民主党もまた積極財政と再分配を主張していた。

こうした中で、日本維新の会は唯一はっきりと新自由主義政策を主張していたといえよう。新自由主義者として知られる人材派遣会社パソナの竹中平蔵会長と結びつき、社会保障としては弱者切り捨てに近いベーシックインカムを主張。規制緩和と民営化で「小さな政府」を実現し、「経済成長」のための競争社会をつくろうとしていた。ある議員は、「正社員」は「既得権」だと明確に言っていた。これはまさしく竹中平蔵の持論でもあり、雇用の不安定化を進めるということだろう。このような路線が、多くの有権者に支持されたということなのだ。

響かなかった分配政策

アベノミクスの9年間、日本の経済成長率は平均して1%前後であった。その間、2回の消費税増税やコストプッシュインフレによって人々の生活は苦しくなった。一方で株価の上昇などによって富裕層や都市部のアッパーミドルは恩恵を受け、格差の拡大が進んだ。社会的な矛盾が広がる中、コロナ禍が訪れた。世の中が疲弊する中で、改革改革と人々をさらなる競争へと煽り立て、あらゆる公共分野をコストカットし、不況にも拘わらず財政政策を渋るような政治はもうやめようという意識が生じた。自民党も、そのような理路で安倍路線を継承する高市早苗や改革主義者の河野太郎ではなく、分配を主張する岸田文雄を選んだのではなかったか。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

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