コラム

「進化」する渡辺直美に付いていけない「オリンピッグ」頭

2021年03月22日(月)11時42分
レディー・ガガ公認、「Rain On Me」のパロディ動画。アリアナ・グランデも出演

アイデア出しの段階で、タレントの渡辺直美を豚に変身させる演出プランを提案していたことが明らかになった佐々木氏(写真は2018年7月31日) TORU HANAI-REUTERS

<渡辺直美を容姿いじりの対象としてしか見られない時点でセンスなし>

3月17日、東京オリンピック・パラリンピックのクリエイティブディレクター佐々木宏が、オリンピック開会式においてタレントの渡辺直美を豚に扮させる演出プランを提案していたことが明らかになり、批判が殺到したため翌18日に辞表を提出した。

尊厳を傷つける演出

明らかになったのはLINEで行われたアイデア出し会議の文章。「豚=渡辺直美への変身部分。どう可愛く見せるか。オリンピッグ」。つまりオリンピックと豚を意味するピッグをかけて、渡辺直美を豚に変身させる演出を行おうとするものだった。このプランはその会議中にダメ出しが入り、ボツになっている。

1年以上前に行われたLINE会議の文章が、なぜ今になってリークされたのか。一部の報道では昨年11月に辞任した演出家MIKIKOと佐々木宏の確執があるともいわれているが、とにかくこのような文面が公に出てしまった以上、批判を免れることができない。

一方、この事件を特段に重要視すべきではないという声もあがっている。確かにこの案はアイデア出しの段階で即座に却下されており、その意味では関係者内で「自浄作用」がはたらいたともいえる。アイデア出しというのは、批判を恐れず思いついたことを何でも提案するものなので問題ないと主張する人もいる。

しかし、このような企画は、アイデア出しの段階であっても口に出すべきではないものだ。太っている人間を豚になぞらえるのは、太っている体型をネガティブに弄って笑いにする方法論であるが、そのような笑いは多くの人の尊厳を傷つけることが、現在の日本でも徐々に気づかれ始めている。まして渡辺直美という芸人が、現在どのようなキャラクターで受容されているかを考えれば、このような演出プランをそもそも思いつくはずがない。つまり人権感覚も時代感覚も、それらにアンテナを張ろうとした努力の形跡もない。圧倒的にセンスがないのだ。

渡辺直美という芸人の「変化」

渡辺直美は2007年にデビューし、すぐにビヨンセやマライア・キャリーの振り付け物真似芸人としてブレイクした。当時の筆者は、恥ずかしながら渡辺直美のポテンシャルを見くびっていた。2008年の27時間テレビの深夜で、明石家さんまのトークコーナーに出演したのだが、同時期にブレイクした鳥居みゆきにキャラクターで圧倒されていたのを見たとき、この芸人は一発屋で終わると思ってしまった。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ファイザー、スイス事業縮小 200人強削減方針と

ワールド

印LCCインディゴ、輸送能力予想を下方修正 大規模

ワールド

タイ・カンボジア紛争、戦火再燃に戸惑う国境自体の住

ビジネス

補正予算案が衆院通過へ、予算委で可決 16日にも成
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story